殆どの小売企業がオムニチャネル顧客体験をより良いものにすべく構想を練っている。しかしオムニチャネルを実現するために組織をどう変革しなければならないかという難問を解くことは難しい。

理想的なオムニチャネル組織とは、小売企業にとって未知の領域と言っても過言ではない。大半の小売企業はオムニチャネルを支えるためにサプライチェーンとITシステムを刷新する必要があると分かっているのだが、一体どのような組織構造が最適なのかは全く分かっていない。

しかし手探り状態であっても、最適なオムニチャネル組織とは何か追求することは極めて重要である。小売企業は、顧客体験とマーケティングを幅広いチャネルで整合させ、品揃えの拡大とともに増大する複雑さに対処し、クロスチャネルの在庫の可視化、共有化、そしてフルフィルメント(注文処理)を実現し、重要な決定の基礎となる顧客データを利用するためには、自社の組織構造を変革するしかない。

これだけの変化には当然、組織全体の質的転換が必要である。本稿では、オムニチャネルに大きな影響を受けるマーチャンダイジング&プランニング組織に焦点を当てる。この重要な組織構成要素について検討が済んでいない小売企業は、オムニチャネル戦略を期待通り実現することは難しい。

初期対応

大手小売企業はすでにこの問題解決に着手している。特に、以下の3つの重要な課題を中心に取り組んでいる。

機能構造の最適化

小売企業は既存の事業環境を制約条件として、各チャネルの特徴を生かしつつ、自社のポジション全体を支える一貫した顧客体験を実現することに取り組んでいる。その最終形態としては、分離型、結合型、あるいはハイブリッド型の組織が考えられる(例えば、マーチャンダイジング部長やシニアバイスプレジデントのレベルで統合した組織の下チャネルごとに別個の担当職員を配置する、あるいは一人の最高マーケティング責任者の下で事業ごとに若干バリエーションを持たせた構造を築く、など)。

従来型チーム の再定義

小売企業がオムニチャネル・モデルに移行する上で、従来型の「古典的なバイヤー」では、複雑化、分散化した責任に対処するには不十分だ。従来型のチーム(バイヤー・プランナー・在庫管理チーム)でさえ、アナリティクスやデジタル・マーチャンダイジングといった、オムニチャネル経験を実現するのに不可欠なすべての機能を組み入れる方向に動いている。

業績向上志向の責任と評価指標の結合

こうした新しい構造とプロセスが整備されると、大手小売企業はそれに従って役割と責任を再定義する。そうすることで、あらゆるチャネルで一貫した魅力的な顧客体験を実現するという対外的な目標に向けて社内の行動規範とインセンティブを一致させようとする。評価指標は特に重要である。とりわけ分離型の組織から責任を共有する組織へ移行する時は特にそうである。

次の動き

組織構造の変革をまだ始めていない小売企業にとって最適なモデルを決定することは難しい。我々は、小売企業の最適なオムニチャネル組織を特徴づける5つの要素を特定した。各要素には検討すべき様々なポイントがあり、その多くを本稿で取り上げている。各要素は事業全体とカテゴリー別の両面から対処する必要がある。例えば、ある小売企業の品揃えはチャネル全体では90%共通しているかもしれないが、フットウェア(靴)などカテゴリーによっては、オンラインではスタイルの幅 やサイズを拡充しているため、60%まで下がる場合もある。

1.基本的な事項

a. 各チャネルの売上規模:ダイレクト・チャネルによる売上高は、総売上高の10%未満か、25%以上か?

b. 伸び率:ダイレクト・チャネルの比率は企業全体の成長にとってどの程度重要なのか?売上は毎年倍増しているか?あるいは年間伸び率は20%未満で停滞しているか?

c. 歴史:実店舗とダイレクト・チャネルはこれまでどのような組織構造だったの か?各事業について誰が意思決定を下すのか?報告体制はどうなっているのか?

2.顧客体験

a. ターゲット消費者のプロファイル:消費者のライフスタイル、デモグラフィッ ク属性、サイコグラフィック(心理的特性)、購買行動は各チャネルでどの程度類似し、あるいは異なっているのか?

b. ブランド期待水準:消費者はどのような体験を期待しているのか?各チャネル、およびチャネル全体で、消費者はそのブランドにどの程度こだわりがあるか?

c. 競合相手:チャネル全体で、中核的な競合相手と周辺的な競合相手はどの程度重複するのか?

d. マーケティング:マーケティングと販促活動はチャネルごとにどの程度異なっているか、あるいは類似しているか?各チャネルでの販売促進の頻度や周期はどうなっているか?どのような種類のメッセージやツールが最も効果的か?

3. 品揃え

a. チャネル全体での品揃えとベンダーの重複:品揃えの大半はチャネル全体で共 通しているか?あるいは提供する商品に関して大きな違いが生じているか?スタイル展開(サイズ、色など)の面で、特定のチャネルを他のチャネルよりもとりわけ重視するといった事例はあるか?非垂直統合状態にある小売企業においては、チャネル間での品揃えの違いを実現するようなベンダー・ガイドラインは存在するか?

b. 部門間の提携の重要性と時間要件:マーチャンダイジング担当とプランニング担当は、重要な情報を提供し主要な活動を実行するために、他の部門にどの程度依存しているか?これはチャネルによってどう違うか?

4. 在庫

a. 事業の周期:「新鮮さ」を保つ要件はどの程度同じか、あるいは異なっている か(例えば、Eコマースサイト用のホームページを毎日更新するのに対し、店内のフロアセッティングは月1回の変更)? 各チャネルの売上高にはどのような周期性があるか?

b. 値下げ:チャネルごとの値下げ・セール戦略は何か?戦略はチャネル間で同じなのか、異なるのか、連携して行われているか?

5.運営

a. 現在採用されているツールとシステム:オムニチャネル機能を支えるツールや システムはどの程度統合されているか?

b. 流通能力:在庫はチャネル全体でどの程度共有されているのか?チャネル全体の需要を確認しこれを満たすのはどの程度容易か?

c. ベンダー:オムニチャネル業務を最適化するためにベンダー(ブランドとサプ ライチェーン)と必要な関係構築を図れているか?

分野ごとに重要性の程度に差があるが、上記の要素から最適なオムニチャネル組織の特徴を整理する事が可能だ。個別に見ると要素ごとに指し示す解が異なるかもしれないが、最善の解決策は全体像から浮かび上がってくる。また、解決策はカテゴリーごとに異なる可能性がある。そのため、すべてのデータポイントを集めて整理することが重要である。

次の2つのケース・スタディでは、これら要素の相互作用が組織全体としての重要な決断にどう貢献するかを検討している。

A社(小売業):Eコマースを伸ばす

A社は多数のブランドを抱え売上高数十億ドルを誇る小売企業だが、Eコマース事業は不振で、総売上高の10%にも到達していなかった。その結果、Eコマースをいかに伸ばすかが最優先課題となっており、3年間でEコマース事業の売上高の倍増を目指した。

消費者実態調査を実施したところブランド認知と消費者体験が極めて重要であることが分かり、チャネル全体で品揃えや消費者体験の類似化を図りたいと考えるに至った。しかしA社は、顧客の選択肢を広げるためサイズを中心に充実させたオンラインの品揃えを、特定のカテゴリーにおいてはスタイルの幅の拡充を実現する品揃えを維持したいと考えていた。

A社はまた、サプライチェーンの全体像を把握でき、チャネル全体から在庫アクセスが可能になる分散オーダー管理(DOM)システムを導入しようとしている最中だった。

以上の要素を勘案し、A社はチャネル全体の品揃えを担当するマーチャントを一名選出したが、同時に新たにEコマース専任のプランニング・ポストを設置し、従来型の販売および在庫の計画のあり方に、ウェブ分析をより重視した手法を組み合わせることにした。A社はまた、Eコマースを一段と重視するようマーチャントのインセンティブも調整した。

Eコマースの成長を重視し始めて以降、A社のEコマースの売上高は過去3年間で70%以上の伸び率を達成し、同業他社の実績を大幅に上回った。

B社(小売業):3チャネルを有する大手企業

B社は、3チャネルを本格的に運営している国際的な専門小売企業で、売上高のおよそ40%をダイレクト・チャネルから獲得していた。ダイレクト・チャネルからの売上高はすでに安定していたのだが、この事業はB社の企業成長計画において引き続き重要なけん引役であった。

ところが、B社は組織とシステムが最適化されておらず、自社の事業の持続可能性を懸念していた。チャネルごとに担当部署が異なっていたため、顧客体験も品揃えもバラバラだった。さらに顧客が2チャネル以上を通じてB社とやり取りしようとする際にサービス上の問題も生じていた。こうして顧客の不満が徐々に高まったことを受けて、会社全体で在庫を共有する取り組みが始まった(こうしたことは同社の以前からのツールとシステムではサポートできなかったのである)。さらに、チャネル全体で顧客体験と品揃えに対する理解を深めたいとの欲求が高まった。

以上の状況を踏まえ、B社はマーチャンダイジング組織の下層レベルではチャネル独自の機能を残したものの、ミドル・マネジメントとシニア・マネジメントのレベルでは責任を統合した。また、在庫プールの共有と財務計画の統合のため単一のプランニング組織へと移行した。ダイレクト・マーチャンダイジング担当とプランニング担当は、チャネル毎に最善判断を支援する別々の分析機能を利用している。また自社のクリエイティブ・マーチャンダイジング・チームとビジュアル・マーチャンダイジング・チームに全てのチャネルを担当させることにした。

こうした組織改編を経て、B社はブランドの一貫性を改善し、顧客サービスで発生する問題を減らし、ダイレクト・チャネルで2桁の成長率を維持できるようになった。

到達までの道のり

オムニチャネル組織を導入し、さらに自社にできる範囲でより幅広い改革を実施することで、小売企業はこれまでに紹介した利点の他にも様々な利益を期待できる。フォレスター・リサーチによると、オムニチャネル顧客は単一チャネル顧客よりも、平均4~5倍多く買い物していることが知られている。さらに、クロスチャネルでの在庫管理が改善すると品切れの頻度の低下につながる。ハーバード・ビジネス・スクールの調べでは、品切れによるコストは年間690億ドルを超えていると報告されている。またモトローラは、クロスチャネルで在庫管理したことで庫保有コストが30~59%削減できたと報告している。最後に重要なポイントとして、クロスチャネルでの調整が向上すると、顧客体験と顧客ロイヤルティも改善される。

もちろん、こうした利益を獲得することは容易ではないだろう。いかなる組織改編も、正しい行動を促す新たなプロセス、共有された在庫を管理しオムニチャネルの可視化を実現するシステム、最新のプランニングまたはレポーティング用ソフトウエア、新たなパフォーマンス指標への移行プラン、そして直接的または間接的に影響を受ける人々すべてに及ぶ包括的な変革管理プログラムがなければ成り立たない。多くの小売企業は、プロセスや運用上の欠陥を解決しつつ、新しい組織形態に移行することで利益を増大させることが可能だ。さらに経営陣からのサポートも欠かせない要素だ。オムニチャネル組織への転換は、正しいリーダーシップの下で実施しないと、全社最適が奪われる場合が多い。

このように様々な課題があるにもかかわらず、小売企業はオムニチャネル組織への転換を進めるほか道は無い。クロスチャネル経験、品揃え、フルフィルメントに対する消費者の期待が高まり続けているが、こうしたニーズに応えられるのは、オムニチャネルの導入に前向きな組織に支えられた小売企業だけだろう。

 

オムニチャネルは全機能にまたがる組織変革をけん引する

オムニチャネルを効果的に実現するには、多くの部署にまたがる大幅な組織変革が必要である。オムニチャネル顧客のニーズを満たす品揃えを実現するにはマーチャンダイジング・プランニング組織を変革することが極めて重要だが、一方でサプライチェーン、実店舗、ITおよび顧客体験などの組織変革も高度なオムニチャネル経験を実現するために重要である。

サプライチェーンについては、会社の歴史が適切な組織の土台になるが、オムニチャネル経験を実現する単一オーナーシップへの移行が今日のトレンドである。オンライン・サプライチェーンと実店舗のサプライチェーンの担当役員を別にしておくと、一つの組織として思考・行動せずにそれぞれ固有のチャネルとして育成し、柔軟性と対応力が著しく損なわれる。とりわけ成功の尺度が共有化されていない場合にはその危険性が高くなる。その一方で、意思決定者が一人であれば、その小売企業全体の利益のために偏見のない判断を下すだろう。しかし、「2012年小売サプライチェーンの現状レポート」によると、小売業者の61%にはフルフィルメントをすべて単独で指揮する役員がいない。ITの観点からすると、多くの小売企業がオムニチャネルの適用に関するオーナーシップ問題、とりわけ、様々なフルフィルメント・ポイントを通じて注文から発送手順を集中的に管理するDOMシステムを誰が所有すべきなのかという問題がある。サプライチェーン、Eコマース、マーチャンダイジングとアロケーション、そして実店舗のすべてがこれらの考察に関与することは明らかだが、多くの大手小売企業は、どのグループがビジネスのルールを決定するのか明確になっていない。

2014-2-26