小売企業は、顧客にオムニチャネル経験(全てのチャネルでのシームレスで一貫性のある顧客と小売企業との関わり合い)を提供しようと何百万ドルもの資金を投じる中で、ともすればオムニチャネルを通じて達成しようとしていることはそもそも何なのかを見失ってしまう。オムニチャネルは本来、より有効かつ有意義な顧客エンゲージメントを獲得することである。

結局のところ、エンゲージメントの高い顧客ほどロイヤリティーが高く、収益性を押し上げる原動力となる。

一方、オムニチャネル経験を提供しないということは、小売企業にとって大きな損害となっている。米業界誌『RISニュース』が2013年秋に実施した調査によると、明確なオムニチャネル戦略に基づいて自社のテクノロジー、業務プロセス、組織体制を整備できなかった企業は、それにより年間売上高の6.5%を失ったと認識している。年間売上高が10億ドルの小売企業の場合、6,500万ドルが失われている計算になる。

どのオムニチャネル機能を追求すべきかを検討するに当たって、小売企業は「お客様にとってどのような利点があるのか?」、「お客様はどのような手段で、何にアクセスしたいのか?」、という問いを常に意識し、問い続ける必要がある。また、オムニチャネル機能を、単にチャネル全体にわたって小売企業と顧客相互のやり取りを促すためだけに利用するのは不十分だということも認識しておかなければならない。小売企業は顧客に向かって商品やサービスを売り込むだけではなく、顧客を引き付けなければならない(=エンゲージしなければならない)からである。

「エンゲージメント」とは何を意味するのか?

「引き付ける、魅了する」という意味の英単語「engage」をアルファベットに分解してみると、小売業におけるこの言葉の意味と、顧客を引き付けることによって小売企業が実現できる利益の両方が明らかになる。

1回の取引を超えた相互的な関係を確立する(Establish)

顧客との有意義な関係を育む(Nurture)

ライフスタイル向上の実現に貢献する機会を得る(Gain)。

最も選ばれる企業としての地位を達成する(Achieve)。

事業の収益性を高める(Grow)。

持続的な顧客忠誠心(=ロイヤリティー)を獲得する(Earn)。

課題と解決策

確かに、オムニチャネルを用いて顧客をうまく引き付けることは決して容易なことではない。そのために、小売企業は少なくとも次のことに取り組む必要がある。

» チャネル全体の顧客動向を常に把握できる体制を整える

» デマンドジェネレーション(需要の創出)およびフルフィルメント(受注処理)に関するデータを、実店舗、Eコマース、モバイル、ソーシャルメディア、検索エンジン全体でリアルタイムに活用する

» 全チャネルについて顧客、商品、マーケティング、各拠点に関する一貫したマスター・データを管理する

» 予測分析やデータの可視化などのビジネスインテリジェンスを活用し、実践に役立つ知見を迅速に見つけ出す

» 企業レベルでの在庫の可視化と複数のフルフィルメント機能を確立する

» 顧客中心主義の観点からマーケティングとマーチャンダイジングを結び付ける

» 商品、マーケティング、およびその他の顧客接点を通じて、その場にふさわしい顧客一人一人に合わせた経験を演出する

以上を実現するために、小売企業は「顧客エンゲージメント」、すなわち顧客との密接な関係を築くためのロードマップを策定しなければならない。ロードマップを用いるには、長期的な視点を持つことが必要となる。つまり、小売企業は、顧客エンゲージメントにどのような影響を及ぼすかという観点から、自社の戦略、機能、体制を常に見直すことが求められる。

カート・サーモンでは、小売企業のために顧客エンゲージメントのロードマップを策定し、オムニチャネルに対するどのような投資が最も収益性が高く有意義なエンゲージメントを促進させるかを明確に特定できるようにしている。

顧客エンゲージメント・ロードマップ

小売企業が顧客にオムニチャネル経験を提供したいと考えることは、方向性としては正しい。しかし、チャネルにかかわらず小売企業と顧客との間にシームレスなやり取り=相互作用を作り出すということと、オムニチャネルの成功とはイコールではない。その成功は、有意義な顧客エンゲージメントが実現して初めて得られるものなのである。そして、有意義な顧客エンゲージメントを促進することこそ、オムニチャネルが考案された目的なのである。