消費者にとってオムニチャネルとは、小売企業とのやり取りを、いかなる場合でも同じサービスレベルでシームレスに行うことである。これにはまず、小売企業とのやり取りが、方法・場所・時間・理由に影響されないことが重要である。そしてその体験では、同じ品揃え、同じ購買体験、同じ受け取り方法の選択肢、同じレベルのサービスを受けられることが重要である。しかも、消費者はそうしたシームレスな体験を好むだけではなくそれを当然のように期待している。実際、多くの消費者にとって「オムニチャネル」という言葉は既に「小売業」と同義になっている。

しかし実際は、真の意味でシームレスな体験を提供していると胸を張って言える小売企業はまだほとんどいない。なぜなら、シームレスな体験を提供するには、ITインフラから販売員インセンティブに至るまで、あらゆるものがそれをサポートするように設計されなければならないからだ。

言い換えれば、オムニチャネルを提供するには、小売企業はオムニチャネルを現場展開しなければならないのである。

オムニチャネルを現場展開するには、最終的にすべての機能分野に変更を加える必要があるが、優先的に改革しなければならない分野が3つある。それは組織構造、IT、サプライチェーンだ。

組織構造

オムニチャネルの現場展開の要は、チェンジマネジメントを的確に実施することである。効果的なチェンジマネジメントは企業トップのコミットメントから始まる。取り組みの推進を、会社のリーダー達が組織内外のすべての人に明確に発信するのだ。そのためには、それにふさわしい役職の人を配置するのが理想的である。それを念頭に、メイシーズやボントンストアなど、こうした必要性を認識している小売企業は、例えば最高オムニチャネル責任者といった役職を創設した。

しかし、組織の変更はトップだけにとどまらない。それぞれのチャネルに固有の専門知識と経験を、すべて互いに組み合わせることが必要だ。ただし、チャネル固有のニーズや関連プロセスには一切手を加えないようにしなければならない(害を及ぼさないように改革を実行すること、これこそが経営の中で最も難しい理由の一つだ)。

例えば、米国高級百貨店ニーマン・マーカスは最近、同社の店舗とオンラインのマーチャンダイジングチームとプランニングチームを統合すると発表した。これまで独立していた各チームのバイヤーはそのまま残るが、プランナーと総合マーチャンダイズ・マネジャーおよび部門マーチャンダイズ・マネジャーの責任は、店舗・通信販売・Eコマースの事業全体へ拡大することになった。

今回統合されたチームの責任者に任命されたジム・ゴールド氏は『Women’s Wear Daily』紙の取材に対し、かつては「経営、購買、あるいはマーケティングの観点から何かをしたいと思っても、まったく違うチームが複数関与してくると、非常に複雑になった」と語っている。この組織構造改革が実行に移されたのは、ニーマン・マーカスがより良いサービスを顧客に提供できるようにするためだとゴールド氏は話す。

また、ニーマン・マーカス・グループの社長兼CEOカレン・カッツ氏は、「私たちはお客様から見れば一つのブランドです。お客様はそれぞれのチャネルを区別しませんし、これからは私たちも区別しません」と述べている。

IT

もちろん、これらの新しい役職と職務が期待通りに機能するためには、小売企業の従業員が必要なツールを手にしていなければならない。そのため、オムニチャネルの現場展開は組織構造に与えるのと同じくらい大きな影響を、ITにも与えることになる。

ITによってもたらされる最も重要な能力は、単一かつ殆どリアルタイムの全組織(全チャネル)の見える化である。結局のところ、従業員がすべてのチャネルを完全に見渡せなければ、小売企業はオムニチャネルの体験を提供できない。社内にオムニチャネルの視点をもたらすことは、たいていの場合、旧来のシステムがオンライン業務用に特別設計された新しいシステムと通信できるようにする方法を見つけることを意味する。

ITに関するもう一つの決定的に重要な改革は、分析能力の実装である。テクノロジーがもたらすツールによって収集できるようになったデータという名の宝の山は、オムニチャネル体験を提供する能力の中心的な構成要素である。ただし、その実現には旧来システムとオンライン専用システムが生成するデータを標準化することが欠かせない。

こうしたデータを分析すれば、小売企業は製品と顧客に対する見識を深めることができる。アバクロンビー&フィッチは、予測分析企業ファースト・インサイトと試験的に行った業務を通してこのことを学び、2014年2月に同社と引き続き長期契約を結んでいる。「ファースト・インサイトを使って、より成功しそうな商品を特定し、価格を適切に設定することで、当社は適切な商品の市場投入までのスピードを速めています。これは売上高と利益率の上昇をもたらすでしょう」と、アパレル専門小売企業である同社のグループ副社長ジリアン・ガルナー氏は話している。

サプライチェーン

オムニチャネル小売企業は、無限に広がる商品網を顧客に提供している。顧客は、その商品がどこに保管されているかなど気にしていない。気にするのは、手間をかけずにすぐ入手できるかどうかである。顧客ができる限り迅速かつ簡便に商品を入手できるよう、オムニチャネル小売企業は以下のような幅広い受け取り方法の選択肢を顧客に提供している。

›          クリック・アンド・コレクト

›          オンラインで購入して店舗で受け取り

›          オンラインで購入して店舗から発送

›          サイトから店舗へ(site-to-store)の発送(別の施設から在庫を店舗に移し、店舗で受け取り)

›          注文商品をいつでも受け取れるロッカー

›          顧客にとって便利な返品方法(オンラインで購入し店舗で返品、店舗で購入し返送、など)

これほど多くの受け取り方法の選択肢を消費者に提供するには、小売企業のサプライチェーンのロジスティクスにも変更を加える必要がある。多くの場合は、流通センターを増やす形を取り、いわゆるダークストアを加えることもある。また、サプライチェーン全体の見える化も鍵となる。そうでなければ、シームレスな商品のフルフィルメントはまず望めない。

オムニチャネルを戦略的優先事項と位置づけ、それを推進する最高幹部レベルの役員職を導入するなど、小売企業が組織構造を改革し、ITとサプライチェーンを改革した後も、変更を加えるべき機能分野は数多く存在する。

店舗の運営

店内の運営にとって最も重要な改革は、店舗からの発送(ship-from-store)と店舗での受け取りを行える能力に加え、ほかのチャネルで購入した商品の返品を処理する能力を実現することが中心となる。それ以外にも、顧客が在庫の有無などの商品情報を検索できる店内キオスクや、厳選された商品を一定期間販売するポップアップ・ストアの設置などが有効な場合もある。また、多くの小売企業は現在、在庫情報を搭載したモバイルPOSシステムを販売員に持たせようとしている。より効率的に、商品を販売できるようにするためだ。購入履歴や閲覧履歴が記録された顧客のプロファイルに、販売員が店舗からアクセスすることを可能にすることで、顧客一人一人にカスタマイズした店内サービス体験の提供が現実のものとなり得る。

商品開発と調達

小売企業の商品開発と調達は、その他の機能分野に比べると、与えられる影響が比較的小さい。これらの部門が実施しなければならないことは、柔軟性を高め、テクノロジーがもたらす顧客別・商品別の情報やサプライチェーン全体の見える化で収集できるようになった、情報などに対する対応力を高めることだ。例えば、複数のチャネルや顧客接点にまたがるオムニチャネル分析(ソーシャルメディアでの顧客の会話の分析など)を使えば、アパレル専門小売企業は、早春の時期に合わせて明るい色のニットのノースリーブをデザインすればよいと分かるだろう。またその企業は、ほぼリアルタイムに入手できるデータを使ってトップスの売上を追跡することで、商品が予想以上の売れ行きを見せている際、今後2週間在庫を切らさないよう必要な量のマイクロファイバーをニアショアで素早く追加調達できるだろう。素早く試作品を作れれば商品開発のサイクルも早くなる。

オムニチャネルの現場展開においては、最終的にはすべての業務機能において変革が必要。しかし、組織構造・IT・サプライチェーンの変革は最優先事項として取り組むべき要素。

マーチャンダイジングとプランニング

組織構造の章でニーマン・マーカスを例に出して述べたように、オムニチャネル小売企業は戦略を含むすべてのチャネルのプランニングと調達の監視体制を導入し、すべての関連機能の管理を一元化する必要がある。しかし、バイヤーは各自のチャネルに集中し続けるべきであり、同様にチャネル固有のプロセスには一切手を加えるべきではない。同じことは地域固有のマーチャンダイジングとプランニングにも言え、品揃えは必ず地域ごとに決めなければならない。

また、マーチャンダイジングとプランニングの機能を支えるために、チャネル全体および地域全体で商品情報を一元的かつリアルタイムに近い形で見られるようにすべきである。この情報はデジタル画像を備え、それぞれの品揃えを完全に最適化するために利用できなければならない。

オムニチャネル小売企業はまた、明確な価格決定と販促の戦略を策定し、継続的に実行しなければならない。これは極めて困難となる場合がある。なぜなら、オムニチャネル小売企業は戦略をチャネル横断的に展開する必要があると同時に、特に競合他社に留意しつつ、地域ごとの幅広い環境を考慮に入れて、価格決定と販促活動を行うようにしなければならないからだ。

顧客エンゲージメント/顧客体験(マーケティングと分析を含む)

オムニチャネル小売企業は、新たな分析手法を導入することで、どうすれば消費者のエンゲージメントを得られるか、どの程度のエンゲージメントを得られるかについて、かつてないほど詳細に知ることができる。しかし、オムニチャネルの世界では万能な方法など存在しない。店舗での双方向ディスプレイを使用する場合でも、顧客個人に合わせたプロモーションを行う場合でも、顧客エンゲージメントを最大化するには、プラットフォームごとに専門知識に裏打ちされた手法が必要となる。さらに、顧客エンゲージメントを追跡するには、小売企業のPOSシステムからFacebookのページに至るまで、あらゆる顧客接点で顧客データを収集可能な顧客関係管理システムが必要となる。顧客が小売企業とやり取りする方法、場所、時間、理由に関わりなく、真の意味でシームレスな体験を顧客に提供するには、小売企業は顧客とのやり取り一つ一つを考慮に入れた上で、顧客一人一人について単一の顧客像を持たなければならない。

財務(インセンティブ、指標、内部財務報告)

オムニチャネル小売企業は、担当するチャネルでの成績だけに基づいて販売員を評価、審査し、インセンティブを与えるのをやめ、組織全体で同じ業績指標を用いた共有モデルを採用しなければならない。そうすれば、共同でのプランニングや協力が促進され、一つのチャネルの意思決定がほかのチャネルに与える影響について、より高い関心を持つようになる。さらに、管理会計・報告制度にも影響が及ぶだろう。これもオムニチャネルの視点に合わせて調整しなければならない部分である。

人事

人事部は広い視野を持つ必要がある。オムニチャネルの視点から見て人材を雇用すると同時に、個々のチャネルの専門知識を持つ人々を採用しなければならないからだ。また、地位が高い人ほど、幅広いオムニチャネルの視点を持たなければならない。逆に、現場に近い人ほど、自分が担当するチャネルに固有の専門知識を持つべきだ。また、人事は各チャネルに共通の主要業績指標作りで重要な役割を演じる。しかし、オムニチャネルの現場展開で人事が果たすおそらく最も重要な機能は、そのために必要となる広範なチェンジマネジメントを支援し、促進することである。

オムニチャネル改革のロードマップ

消費者側は、どのチャネルでも小売企業とシームレスにやり取りできると期待しており、これが近年では当たり前となっている。そのため小売企業にとっては、もはやオムニチャネルを現場展開すべきかどうかが問題なのではなく、いつ、どの順番で現場展開するかが問題なのである。

小売企業がオムニチャネルで成功するための足場を固めるには、まず従業員と顧客の双方にオムニチャネル戦略の重要性を明確に表明し、次にオムニチャネルの視点から設計されたITインフラと個人のテクノロジーツールによって、各スタッフがオムニチャネルに期待される役割を果たせるようにする必要がある。改革が必要な第三の機能分野はサプライチェーンである。オムニチャネルは「いつでも、どこでも」のモデルに対応できるようフルフィルメントのルールを根本的に変えてしまうため、小売企業のロジスティクスもそれをサポートできるよう改革しなければならない。

これら3つの中核機能分野でオムニチャネルを現場展開できれば、組織のその他の部分の改革にも着手できるようになる。こうした過程を通して、小売企業は21世紀に成功するための足場を固めることができる。なぜなら、21世紀の消費者にとってオムニチャネルとは、小売業の単なる一側面でもなければ、小売企業の一種でもなく、小売業そのものだからだ。

2014-10-1