日本のeコマース市場は他の先進国と比べて若いものの、過去5 年間に大手グローバルブランドが次々と参入し、今まさに急成長目前である。

現在の eコマース浸透率は6.6%にすぎないが、富士経済のリサーチによれば、今後3年間の年間成長率を8.4%と予測される。食糧雑貨、ホームなどの一部カテゴリーについては、それをはるかに超える急成長が見込まれる(資料1参照)。

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ただし、すべてのブランドで同じようにこの熱い市場で顧客を獲得し収益を拡大する体制整備が進んでいるわけではない。より成熟した他国のeコマース市場と同様に、日本の小売企業は顧客を中心に据えたケイパビリティの増強と提供価値の再定義をしていくだろう。消費者を喜ばせて売上を伸ばすという点で、グローバルブランドと国内ブランドはそれぞれの課題を抱える。

カート・サーモンは97ブランド(多種の小売業におけるグローバルブランドと国内ブランド)を調査し、うち実際55ブランドに計158件以上の注文を行い、返品ポリシーについても確認した。調査の目的は、日本の小売企業について、オンラインにおける購入前・購入時・購入後の顧客体験、コスト、およびスピードを調べることである。

以下に、調査で判明したことを述べる。グローバルブランドと国内ブランドが急成長目前の日本のeコマース市場で優位に立つために、今、何をすべきなのかも併せて提示している。

グローバルブランドにとっての教訓

速くて安い配送。調査によれば、グローバルブランドは国内ブランドと比べて、送料無料の閾値(XX円以上の購入で送料無料という金額)が87%高く、全体としての送料も24%高い。この2点は、長期的に日本のブランドとの競争を困難にする。なぜなら日本の消費者は極めて価格に敏感であり、特に非高級品の購入において送料無料の基準額が高いことは許容されにくいからである。

グローバルブランドは、送料の引き下げに加えて配送の迅速化も必要である。迅速な配送は世界中で重要性を増しているが、とりわけ日本ではそれが不可欠である。日本は国土が狭く、また強力な輸送網が発達しているため、特に東京においては、ほとんどの荷物が当日中~2日以内に問題なく配送される。

だが、おそらくグローバルブランドが最も改善すべき領域は、国内の競合他社に劣らない柔軟な配送オプションの提供だろう。たとえば配送時間帯の指定や、自宅以外への配送(クリック&コレクト、コンビニ受取など)である。事実、今回調査したブランドのうち国内ブランドはすべて柔軟な配送オプションを用意していたのに対し、グローバルブランドでは57%のみであった(資料2参照)。また、ヤマト運輸、佐川急便、および日本郵便の調査によれば、柔軟な配送時間帯の利用は2005年から2010年の間に5倍に拡大した。

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柔軟な配送時間指定は、消費者の利便性とタッチポイントの拡大に資するだけではない。ヤマト運輸、佐川急便、および日本郵便が調査した結果、労働時間が長く人々が時間に追われる日本では荷物の20%程度が再配達されいることから、柔軟な時間帯指定は配送コストの低減に寄与する。さらにカート・サーモンの調査が示したところでは、女性の中には配送業者が自宅の玄関に来るのを嫌う人もいるので、店舗で受け取れるオプションは必須である。また、自分が自宅で注文した商品を夫が帰宅途中に店舗で受け取れるという理由で、コンビニ受取を歓迎する女性もいる。

例を挙げると、日本で1万8千店舗以上のコンビニ、及び百貨店、GMS・スーパー等を展開する7 & iホールディングスは昨年、セブンイレブン店舗での受取を開始した。ご存知のように同社のセブンイレブンは数が膨大であることに加え、その大半が24時間営業である。7 & iは自社ブランドおよび数十社の提携企業への注文品を自社のコンビニで受け取れるようにし、来店客数と売上を押し上げている。

日本語ウェブサイトの設置。グローバルブランドの中には日本語ウェブサイトを持たないものもあることが、今回の調査でわかった。些細なことのようで実は大問題なのである―ほとんどの日本人は英語のウェブサイトを信用せず、あまり閲覧しない。2015年のPayPal調査によれば、日本の消費者は海外のeコマースブランドに対する信用が29カ国中最低、日本語以外のウェブサイトやアプリに対する不信は最高であった。

国内ブランドにとっての教訓

モバイルアプリの導入。日本のモバイル端末利用率は極めて高く、情報通信ネットワーク産業協会の調査では、2015年の日本人のスマートフォン保有率は前年比29%増の77%に達した。それにもかかわらず、調査対象の国内ブランドのうちモバイルアプリを提供するのはわずか15%、対してグローバルブランドでは22%であった。購入機能のない小売アプリがいくつかあったが、今回の調査でカウントに入れたのは、直接そのアプリから購入できる場合のみである。

日本のブランドにとってモバイルアプリの開発は差別化に有効であり、しっかりコントロールされた豊かな体験を通して、消費者とさらに強くつながるための「オムニチャネル」(1つのチャネルだけでなく、多数のチャネルを通して)な結び付きを提供するタッチポイントとしても、モバイルアプリは優れた手段である。

モバイルアプリを提供するグローバルブランドの場合、それをローカライズすれば大きな機会を獲得できる。

無印良品は国内のモバイルアプリの先進例である。同社のアプリによって、消費者はいつでもどこでもオムニチャネル体験が可能になる。同社はウェブサイトおよびオフライン店舗のデータとシームレスに統合することで、200万人以上の会員のひとり一人に合わせた商品提案をモバイル端末を通して行い、売上を伸ばしている。このようなリアルタイム・コンシューマー・インサイトはまた、クロスセルやアップセルの機会も広げる。同様にザラのアプリは、それぞれの消費者に近い店舗にどの商品在庫があるかを表示することで、衝動買いを誘起している。

安価で簡単な返品。国内ブランドが単なるコストセンターと捉えがちであるフルフィルメントは、実は競争優位性になり得る。その典型例が返品ポリシーである。多くの国内ブランドの返品ポリシーはグローバルブランドのそれに遠く及ばず、長期的成長を阻んでいる。

日本と西欧の消費者は、歴史的・文化的相違のために返品に対する意識が異なる。日本では返品に「罪悪感」を感じる人がおり、商品の返品は少ない。しかしeコマースが浸透するにつれ、特に衣料品や靴のように試着が重要であるカテゴリーではおそらく返品率が上昇すると考えられ、日本の消費者がよりよい返品ポリシーを求め始めるのは時間の問題である。

このことは最終的に、国内ブランドによる新規顧客獲得能力を限定することになり得るだろう。なじみのない商品の返品に対して現在のような障壁があると、オンライン購入に不安を感じる消費者もいるからである。そうならないように国内ブランドは、返品をコストセンターと捉えるのではなく、柔軟で寛大な無料返品ポリシーを、差別化要因として、また購入障壁を下げる収益ドライバーとして認識すべきである。

調査したブランドのうち、返品可であったのは全ブランドの71%にすぎず、そのうち無料で返品できたのはわずか53%であった。国内ブランドとグローバルブランドとの差は大きく、無料返品が可能なのはグローバルブランドでは半数、対して国内ブランドでは29%のみであった(資料3参照)。

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さらに、店舗で返品できるブランドは8%と非常に少なかった。店舗での返品は、消費者の利便性を高めるのはもちろんだが、より重要な面もある。返品のために来店した顧客が別の商品を購入したり、オンラインとは異なる体験的環境の中でブランドと接したりする可能性がある。

その好例が丸井である。丸井ではクリック&コレクト(オンライン注文の店舗受取)や店舗での返品が可能であり、追加販売の機会を数多く創出している。靴も無料で返品できる。靴は丸井の戦略的カテゴリーであるとともに、消費者にとっては最も試着が必要な、そして返品する可能性のあるカテゴリーである。

返品に関して優れているグローバルブランドはGAPであった。返品処理に必要なものすべてと、返品方法のわりやすい説明が同梱されていた。

ハードラインブランドにとっての教訓

調査で明らかになったもう一つの点として、一部のハードラインブランド(GMS、スーパー、DIY・家具店、薬局、化粧品ブランドなど)は、優れたクロスチャネル顧客体験を提供しeコマース市場で主導権を握るためには一層の取組が必要である。その主な理由はオペレーションの複雑さである。

たとえば、今回の調査で、ハードラインブランドは全体的なオムニチャネルケイパビリティが少なかった。たとえば、ソフトラインブランドと比べてモバイルレスポンシブウェブサイトを提供している割合が6%少なく、モバイルアプリを提供している割合が14%少なかった。一部のハードラインブランドは、モバイルアプリとウェブサイトで店舗とオンラインの在庫可視性を提供している小売企業(ビックカメラなど)から学べることがあるだろう。

ハードラインブランドは、店舗での受け取りの面でも遅れているが、コンビニ受取とロッカー受取の導入は進んでいる。そうした取組の多くはいまだ試験段階にあるものの、高いラストマイル配送コストを下げる効果を期待しての試行錯誤が各社で繰り広げられている。

返品について見ると、食品を除くハードラインブランドは(食品については物理的な返品は行われず、返金のみが行われるケースが多い)、返品についての説明が同梱されていないことが多く、また、電話やオンラインで問い合わせることなく簡単に返品手続きができるブランドは皆無であった。さらに、それらのハードラインブランドは無料返品や印刷済み返品ラベルを提供する割合が大幅に低かった。

最後に、ハードラインブランドは返金に長期間かかる傾向があり、食品業態は平均8.1日、日用消費財ブランドは6.8日を要した。調査した全ブランドの平均は6.4日であった。

これらの提言の究極のねらいは、小売企業がこれから始まる日本のeコマース急成長をうまく利用して、他から抜きん出て、消費者とつながり、この先何年も高業績を達成できるようにすることである。小売企業は今こそ、日本のeコマース時代をリードするための動きを起こすべきである。

2016-4-25