生活のあらゆるシーンに携帯端末が入り込むにつれ、モバイル決済の利用は急増している。

 カート・サーモンとプロスパー社が8,000人を対象に実施したアンケートによると、調査対象者の15%が、2011年のクリスマスシーズン中に携帯端末で買い物をする予定をしていた。利用可能なモバイル決済機能が限られていたことを考えると、かなり高い数値といえる。

 今後、モバイル決済の普及に伴い携帯端末からの購入が増えることは確実であり、ジュピター・リサーチはその額が2016年までに6,700億ドルになると見積もっている。

 カート・サーモンが幅広いセグメントの小売企業30社を調査したところ、その72%がモバイルアプリケーションをすでに提供しているが、基本機能以外で提供されている機能はさまざまな状況であった。例えば、小売企業によるモバイルアプリのうち最寄りの店舗を案内するのは79%、顧客にクーポンを配信するのは35%、自社のロイヤルティプログラムと連動するのは25%、店頭で携帯電話による支払いが可能なのは3%のみであった。

 しかし消費者の期待の高まりを受け、安全なモバイル決済機能の提供は戦略上急務になりつつある。

 モバイル決済機能の要求の高まりは当然の流れだと言えるだろう。それは優れたモバイル決済プログラムは、顧客には高い利便性、小売企業には低コストのインタラクションチャネルを提供することにより、競合他社との差別化と業務効率改善をもたらすからである。

 さらにモバイル決済に対する理解を深めるまえに「モバイル決済とは何か」を明確にする必要がある。モバイル決済は決済手段を提供するだけではなく、ロイヤルティプログラム、ギフトカード、ストアクレジット、クーポンを一手に引き受け、決済のあらゆる側面を簡素化するサービスの集合体であると定義できる。

 またそれ以上に重要なのは、モバイル決済がモバイルコマース戦略の成功の根幹を成すという事実である。携帯電話なしでは生活できない人が増えている今、統合されたオムニチャネル*1体験を1台の端末で包括的且つスムーズに提供することが、モバイルコマース戦略の主眼でなければならない。

 とはいえ、新しいテクノロジーがすぐに陳腐化し、短期的な業績目標に追われ、消費者がますます賢くなる現状では、包括的且つスムーズなモバイル決済機能の提供など目指さない方が小売企業にとって楽かもしれない。それでもなお、ブランド体験およびその中でのモバイル決済の位置づけにおいて長期的ビジョンを持つことは不可欠である。

 カート・サーモンは次の3つの基本的な質問から始めることをお勧めしている。

  1. モバイルの観点から見て、顧客は当社のブランドとどのように関わりたいのか?
  2. モバイル決済を実現する具体的な方法は?どのようなシステム、ツール、ハードウェアが必要か?優先すべき決済形態は?
  3. 一貫した経験とブランドの元で、テクノロジーの多様性を超えて、確実に決済方法を統一するにはどうすべきか?

 今後変わることなく重要なポイントは、顧客にとっては売買できるだけでなく、様々な場面で統一されたモバイル体験を生み出すことである。したがって、以下に示す購買サイクル全体をカバーする施策が、特に優れたモバイル施策といえる。

» ロケーションベースのオファーで来店を促す

 この種のオファーは「あまり煩わしくなく、しかもお得感がある」とみなされるようになっており、受容度が上昇傾向にある。その結果、ジュピター・リサーチの予測では、2011年に54億ドルであったモバイルクーポン利用額が2016年には430億ドルへと急拡大すると予測されている。

» カスタマイズした体験を多様なチャネルで提供する

 消費者はカスタマイズを強く求めており、ひいきにしている店が自分に合わせた体験を多様なチャネルで提供してくれることを、ますます期待するようになっている。その一例としてシアーズが行っているイニシアチブがある。入店者が携帯電話でチェックインすると、店員が即座にGPSでその人を見つけて挨拶し、その人がオンラインで見ていた商品の売場に案内する。これにより、店員による接客、商品を直接確かめる体験、およびオンラインショッピングの容易性が一体化する。

» 顧客が情報を見つけやすいようにする

 スマートフォンを片手に通路を歩き回る顧客が皆、比較購買をしているわけではない。実際、多くの人は商品の入手可能性や評判を検索し、SNSでコンテンツを共有している。モバイルアプリを自社のSNSページと連動させれば、大きな価値を持つ好意的クチコミの投稿を促進できる。QRコードも情報提供に役立つ。カート・サーモンの分析では、小売企業により現在提供されているモバイルアプリの54%がQRコード読み取り機能を備えている。

» ロイヤルティプログラムやギフトカードを組み込む

 携帯電話から購入した際に、自動的にロイヤルティポイントが貯まり、ギフトカードと引き換えられることが必要である。

» フィードバックをループ化し、さらなるインサイトを発掘する

 モバイルアプリは顧客に特典を与えるだけではなく、売る側にとってもすぐに重要な存在になる。低コストで迅速なインタラクションチャネルであるモバイルアプリは、さらなるカスタマーインサイトにつながるデータ収集まで実現できる。

 ビジョンを確立した後には、当然ながらそれをどう実現するかという課題に取り組まなければならない。

 多くの小売企業は主なモバイル機能を導入済みである。次に何を取り入れるかを決めるには、消費者にとって最も価値のある機能を考慮に入れながら、戦略の優先順位付けを行う必要がある。たとえば、現金とクレジットカードという現行の支払方法をやめるわけにはいかない。

 一方で、多くのロイヤルティプログラム、ギフトカード、クーポンは利便性の面で改善の余地が大きく、ロイヤルティプログラム、ギフトカード、クーポンを扱えるモバイルアプリがあれば、利便性向上に向けた第一歩となる。

 もちろん、モバイル決済は目まぐるしい技術発展の一過程にすぎない。ここで次の一手を打てないと将来の道が一層険しくなる。そして長期にわたる成功の条件としては、戦略的な顧客体験ビジョンを今の時点で打ち出せること、そしてそのビジョンを将来にわたって支えるために、技術・運用の両面で強固かつ柔軟なプラットフォームに投資できることである。

*1モバイル・ネット・店舗・TVショッピング・カタログ等の販売チャネルが包括的に一元化されている状態

2012-8-27