過剰かつ無計画な販促活動を慢性的に行っていると、利益率の低下や、売上高の乱高下を誘発するという深刻な事態が生じかねないことは、小売企業のほとんどが認めるところである。それでも大半の企業が、売上目標の達成や競合他社からのシェア奪取といった目先の利益と引き換えに、そのような事態を甘んじて受け入れる。しかし、このような場当たり的な販促活動に頼り続けると、それよりはるかに高いコストを長期的に追うことになる、という点に多くの企業が気づいていない。これは多くの場合、的確かつ最も効果的な値付けや、一貫性のある価格対価値提案で築く信頼による顧客ロイヤルティを構築する価格戦略を、秩序ある形で実行できなくなることを意味する。

 値引き中心の販売促進それ自体には悪いところはない。昔から行われており、新規顧客の獲得や来客数の段階的な増加といった事業目標を達成するには、極めて効果的な方法になりえる。あなたも客として「チャンスをものにする」あるいは「勝ち逃げする」という感覚を味わったことがあるならば値引きによる販売促進には、本質的に顧客を興奮させる何かがあることもわかるだろう。顧客は販売促進によって予期せぬことを期待するようになり、いつ起きるかわからない値引きを待つ緊張感を持つことに慣れ、コンバージョン・レート(来店者数に占める実際の購買者数の割合)の上昇とバスケット(客単価)の拡大を瞬時にもたらすことができる。

 しかし、最近の過剰な販促活動は、顧客の消費行動に負の影響をもたらしてきたかもしれない。特にここ数年、小売企業が目まぐるしく価格を変更した結果、定価を信用しない癖が顧客についてしまい、中には通常の割引では何とも思わず、より大幅な値引きでしか購買意欲がかきたてられない冷やかな顧客も現れた。

 さらに悪いことに、販売促進を強く意識したスタンスを保つように求められる結果、小売企業は以下のような最善とは言えない業務慣行を強いられている。

  • さまざまなチャネルや媒体の間で複数の値引きが重複する結果、販促活動において判別不能なノイズが生じ、各商品の費用と利益を区別することが難しくなっている
  • 「店内全品50%オフ」など、販促活動では大々的なメッセージが必要となる場合が多いが、小売店が色、スタイル、サイズや地域でターゲットプライスを変更する能力を台無しにしてしまう
  • その上、大規模な値下げを行うことは、広告や看板の製作費はもちろん、店舗の労働力にとってもかなりの負担となる

 もちろん、過剰な販売促進というトレンドには非常に勢いがある。競争が厳しい環境では多くの小売企業が、ゲームに踏みとどまるために販促活動を積み重ねざるをえない。消費者はかつてないほど多くの情報や商品にアクセスし、その結果、何に対しても定価通りの金額を支払おうとしなくなっている。

 同時に、小売企業はある種の囚人のジレンマにはまっている。すなわち、ほとんどの企業が販促活動を削減したいという共通の願望を口にするが、最初に削減を実施した企業は、少なくとも短期的には、競合他社が付け入る大きな余地を与えてしまうのである。

 小売業者は販売促進というドラッグをきっぱりやめる必要はないという事実は、ひとつの良い点だろう。販促価格は注意深く活用すれば、既定戦略を遂行するための非常に効果的な方法になりえる。

 重要なのは、小売企業が価格設定と販売促進を完全にコントロールできる状態を確実にすることである。販売促進を頻繁に実施してもかまわない。ただし、それらの活動は注意深く計画され、顧客ロイヤルティの向上や来客数の持続的な増加などの、具体的な成果の達成に焦点を合わせたものでなければならない。そうすることなく、不景気や、競争の激化、販売の落ち込みなどの影響に対処すべく、販促の上に販促を重ねるならば、収益性が犠牲になり、かといって顧客の消費行動を長期的に望ましい方向に変えられるとも限らない。

 ならば、小売企業が販促活動のバランスを正しく取るにはどうすればよいのだろうか。しっかりとした価格戦略の基礎となるのは、妥当な業績目標に従って明確に定められた事業戦略と、その企業がターゲットとする顧客の消費動機に対する深い理解に加えて、マーチャンダイジング・計画立案・戦略目標というより大きな視点における、価格設定の明確化である。

業績目標の間の矛盾を解決せよ

 小売企業の多くは気づいていないが、全体的な企業業績を評価・管理するために一般的に使われる指標こそが、危険で過剰な販売促進を助長することがある。ほとんどの企業、とりわけ公開企業は、四半期ごとに株主に報告する既存店売上高の伸びや収益を高めるべく、短期的な売上・利益率目標に囚われるのは仕方がない。しかし、こうした短期的な売上成長を重視する小売企業のスタンスは、長期的には自らを不利な状況に追い込む行動に発展することが多い。

 この過剰な販促活動による近視眼的な値引きが店舗で最もよく見られたのは、2011年のブラック・フライデーだった。この4日間、小売企業は市場シェアを巡って熾烈な戦いを繰り広げ、顧客ロイヤルティが向上し続けるかどうかなど気にせず、さらに言えば、秋シーズン全体の収益性を顧みることはほとんどなかった。あるアパレル専門の小売企業はブラック・フライデー前後に大幅な値引きを行い、その週末は3桁の既存店売上高の伸びを達成したが、ホリデー・シーズンの残りの期間は苦戦するはめになった。店舗全体で幅広く値引きを行い、顧客が最も人気の商品を買っても例外なく値引き対象となったため、その企業は売れ筋商品のいくつかで欠品を起こすと同時に利益率を犠牲にした。それだけでなく、人気のない商品の相対的な価格水準を一度も調整しなかったことから、1月になってそれら人気のない商品の在庫がかさみ、大幅な値下げをして処分せざるをえなかった。その結果、1月の収益と既存店売上高は低迷し、ついには株価が大幅に下落するに至ったのである。

 多くの小売企業がこのような状況に喘いでいる理由は、異なる業務目標が矛盾しているためである。一方では、短期的な企業業績への期待が、月次や場合によっては週次の売上目標を達成するための無謀な販促活動の誘因となる。同様に、決算期末の報告に対する憂慮から、回復の見込みがない在庫の洗い替えを次の決算期まで先送りにして売上総利益率を守るため、恒常的値下げという無責任な慣行が生まれることもある。小売企業は他方では、製品のライフサイクル全体を通して収益性を最大化し、収益性の高い顧客を惹きつけ、維持し、その信頼を獲得するために、先を見越した戦術を採用しようとする。これらの目標が実務上相容れないのは明らかである。このような業務遂行動機の矛盾を取り除くことが、過剰販促サイクルを打破するためにはまず必要となる。

ターゲット顧客の消費行動を理解せよ

 顧客についての、そして顧客に対する小売業者の話し方にも、根本的に矛盾するものがある。どのような小売価格戦術に従っているかにもよるが、対極に位置するある2種類の顧客がいると想定しているのかもしれない。一方の極は、来店する前に商品をネットでリサーチし、来店すればスマートフォン片手に通路をうろつき、バーコードをスキャンし、複数のネット業者と比較しながら買い物する、知識の豊富な顧客。もう一方は、折り込みチラシに毎週忠実に目を通し、クーポンを切り抜き、来店して当日限りや週末限定のセールを利用する、従来タイプの顧客である。

 現実には、ほとんどの顧客が両方の要素を少しずつ持ち合わせている。小売企業は価格戦略を再検討する場合、ターゲットとする顧客がどの程度洗練されているのか、明確な低価格を求めているのか、それとも大きな販促イベントに付き物の不確実性やスリルといった興奮を求めているのかを、理解すべきことが必要である。

 一例として、価格設定スタンスを仕切り直そうと劇的な試みを行ったJ.C. ペニーについて考察すると、同社はむしろ自らの顧客を知識が豊富で現実的な買い物客として捉えたと、外部者からは見てとれる。極めて透明性の高い戦略にいくつかの利点があるのは確かである。まず、J.C.ペニーは価格と値引きの最適化理論を利用して、値引き幅をアピールするメッセージを書く必要性に迫られることなく、綿密な価格設定を行って利益率を上昇させることができる。また、商品の陳列方法と価格の明確化で顧客体験が改善されるほか、店員の労働時間とチラシのページ数の多くを削減することで、かなりの経費節減につながる。

 しかし同時に、価格戦略を改革しようとするJ.C.ペニーなどの小売企業の長期的な成否は、最終的には、顧客一人一人が商品を見て回って購入する本当の動機が何なのかの理解にかかっている。つまり、ターゲット顧客は目玉商品の物色中に味わう「宝探し」気分を喜んで捨てられるか、そして小売企業が価値提案の透明性を高めることにどれだけ説得力があるのかによる。

 オムニチャネル・リテーリングが以前にも増して、個々の顧客の多様な好みに合わせて提供商品を変える機会となっている。例えば、オンラインチャネルとモバイルチャネルがあれば、販促内容を顧客一人一人に合わせてカスタマイズできる。個々人に合わせた価格設定が広く一般に用いられるようになるにはまだ数年かかるかもしれないが、小売企業は既に顧客データをフル活用して、店頭品揃えの多くの側面を地域や個人に合わせて調整するようになっており、顧客の関心を「一般」価格から「私だけの」価格へ向けるべく、積極的に動いている企業も複数ある。

具体性が重要:価格設定の明確な目的を設定せよ

 小売企業が犯す最大の間違いの1つは、価格設定に関する方向性を決定づける事業戦略を完全にまとめあげることなく、「事業を推進する」ための切れ味の悪い道具として価格を使うことである。トップを走る小売企業は、事業戦略と商品戦略を明確に定めることから始める。これらの戦略は事業カテゴリと顧客セグメントによって異なる場合があるが、小売企業がいかに競争して勝とうとしているかという根本的な問いに対する答えであり、どのような品揃えを提供するか、どのような在庫に投資するか、商品をどのように位置づけて売り込むか、そしてもちろん、どう価格設定して販促するか、などの指針となる具体的な戦術に落とし込まれる。

 ここでも、顧客を徹底的に理解することが、価格戦略の本質的な前提条件となる。ある商品カテゴリで顧客がどのように買い物をするか、競合他社が顧客の意思決定プロセスにどのように登場するかを理解すれば、価格設定手法を決めるのに役立つ。

カギとなる以下の3つの問いを考えてみよう。

  • 顧客が、直接・間接の競合他社ではなく、特定の小売企業で品物を見て購入する理由は何か
  • その小売業者が価格で競争しているのはどの商品か、他の差別化要因で競争しているのはどの商品か
  • 価格によって売れ行きが変わる商品、変わらない商品は何か

 どの価格設定手法や価格最適化プログラムも、その基礎となるテクノロジーがいかに洗練されていても、はっきりと明確に定義された戦略なしでは成功しようがない。

販売促進の場合も同様に、他社に後れをとる小売企業の販促業務では明確な目的に欠けることが多く見られる。多くの企業が、一種の試行錯誤の手法を使用していると明かす。複数の販促活動を行い、そのうちの1つが当たればと願っているのである。販促活動を成功させている小売企業は戦略からスタートし、それぞれの販促活動によってどのような消費行動に影響を与えたいか、具体的にどのような測定可能な結果を達成したいか、明確に理解している。これらの目標は、「既存店売上高」よりもはるかに具体的なのが一般的で、以下のように、ターゲット顧客の消費行動に焦点を合わせている。

  • 販促対象商品を高い収益性で売り上げるよう推進する、またはロスリーダーの宣伝により収益性の高いバスケットを構築する
  • 来客数を段階的に増加させる、または来店済み顧客のバスケットを拡大する
  • 既存顧客の来店回数を増加させる、または新規顧客を獲得する
  • ロイヤルティプログラムへの加入を募る、または既存のロイヤルティ会員からの利益を増加させる

 同様に、在庫一掃のための価格設定や値引きの最適化は、在庫処分期間の厳密なスケジュールや在庫の生産性に関する目標など、商品戦略が定める目標にパラメータが完全に一致している場合だけ実施している。

 究極的には、価格は顧客の需要を形作る極めて大きな力を持っている。しかし、顧客の消費行動の動機を理解することに加えて、あらゆる価格設定の目的や、それが小売企業のより大きな戦略目標に適しているかを理解することもまた不可欠である。

問題解決の最初のステップは、問題が存在すると認めることである。無計画な販売促進や容易に成果の得られる価格変更が、長期的な収益性や価格認識にいかに破滅的な影響を与えるかをひとたび理解すれば、小売企業は、より秩序立った価格設定と販売促進を進めるための解決策を実行に移すことができる。小売企業は、顧客を徹底して理解すること、戦略目標をさらに明確に意識すること、正しい業務遂行動機を設定することによって、無謀な販促活動を離れ、より持続可能な企業業績の実現へと歩みを進めることができるのである。

 

著者

ロブ・ネメットは、10年以上にわたり、世界の大手小売企業に価格戦略を成功させるための助言を行ってきた経験を持っている。