言うまでもないことだが、データ解析は正しく扱えばビジネスにおいてとてつもなく強力な武器になり得る。

 かつて小売企業内の様々な部門で単発的にしか行われていなかったデータ解析は、今日では企業業績全体や競争優位性を高める主な原動力として、ますます重要な役割を担うようになっている。しかしながら、経営においてデータ解析の重要性が高まるなか、データ解析がもたらす価値を十二分に引き出し、そのデータを重要な戦略的資産に変えることに、多くの小売企業が苦戦している。

 エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(エコノミスト誌の調査部門)が最近実施した600名を超える経営幹部を対象とした調査から、85%の回答者が、データ解析がもたらす価値を引き出す上で最も高いハードルは膨大なデータの取り扱いではなく、データを分析しそれに基づいて行動することだということが分かった。ほとんどの回答者が、データ解析は戦略的に重要だと認識されていない、または、組織の企業文化に組み込まれていないため、データ解析から洞察を引き出し、施策を打つ能力が損なわれていると回答した。

 しかし、ウォルマートやメイシーズ、CVSなどの一部の大手小売企業はそうした課題を克服し、データ解析を実務に落とし込み、企業の企業文化へ組み込むことに成功しつつある。その過程を通じてより優れた意思決定ができるようになり、これら企業の業績は向上した。

 適切な商品を、適切な場所で、適切な時に、適切な価格で販売するという課題が小売業界に長い間存在してきたならば、データ解析はこの目標を達成するうえで非常に優れた手段になる。データ解析に基づくビジネスモデルを積極的に追求してきた小売企業は、大幅に業績を改善している。179の上場企業を対象にマサチューセッツ工科大学スローン・マネジメント・スクールが実施した最近の分析から、データ解析に基づいた意思決定を重要視している企業は、競合他社よりも5~6%高い業績を達成していることが明らかになった。

 例えば、売上高数十億ドル規模の全国スーパーマーケット・チェーンは、画一的なアプローチによる店舗への商品供給では、より機転の効く競合他社に差をつけられてしまうことに気付いた。そこで顧客に関する店舗レベルのデータを分析し、さらに外部データで補完することで、特定の店舗で買い物をする顧客が求める、地域に合った品揃えを用意することができるようになった。その後カート・サーモンは、この新しいアプローチを商品カテゴリーおよびスペースの計画立案プロセスへの組み入れをサポートした。この新しいアプローチを採用した結果、既存店売上高が2~7%増加した。

 カート・サーモンの別の顧客である専門小売企業は、在庫割当に関するデータ解析とプロセスの改善をサポートした結果、10~15%の在庫削減および0.6~0.9%の売上増加を達成している。

 カート・サーモンでは、データ解析の成熟度がさまざまな段階にある各小売企業へのサポート経験を通じて、データ解析で先行する小売企業が共通してたどってきた5つのステップを特定した:

1. 事業上の成果重視

 データ解析を導入する際、多くの組織が博士号保有者を採用して彼らに任せきりにすることからスタートし、残念ながらそこで終わっている。「チームや部門を設立すれば結果は後からついてくる」という、IT導入の障害となっている考え方同様、データ解析チームを設置するだけでは全くもって不十分である。明確な事業上の目的を頭に入れずに、また、データ解析結果を事業上の成果に繋げるために必要な組織の仕組みがなければ、その組織はデータ解析に取り組み始めて間もなく、その価値に疑問を持ち始めるだろう。さらに悪いことに、そのデータ解析チームは他部門と連携が取れない閉鎖的な集団と見なされるようになり、組織から孤立して、事業上のより大きな目標達成に効果的に貢献できなくなるだろう。次いでデータ解析コストが疑問視されるようになり、データ解析チームの縮小または解散さえ検討する企業も出てくるだろう。

 他方、データ解析がもたらす価値を引き出すことに成功している組織は、最終的な事業上の目標にピンポイントで焦点を合わせることから始め、目標を達成すべくデータ解析を導入する。これにはデータ解析組織の設置および育成を要する場合もあるが、そうすることでデータ解析チーム(および組織全体)がどのように事業価値を創造するかという点についてより明確になる。

 結局のところ、データ解析は目的達成のための手段であって、目的そのものではないと理解することが極めて重要である。カート・サーモンは、欧州のある大手百貨店チェーンへのサポートを通じて、データ解析の焦点を絞り、効果的な導入を支援した。このクライアントでは、多額の販売機会損失や利益を生まない在庫を大量に抱える要因になっているそれまでの誤った購買プロセスを見直す必要があった。カート・サーモンの支援により、顧客の購入パターンに関するデータを活用してより正確に需要を予測できるようになり、データ解析を効率的に応用した商品カテゴリーについては店舗当たりの利益が平均で26万ユーロ増加した。

2. 文化の変革

 データ解析の効果を引き出せるようになる体制が、各小売企業に整っていると確信できれば素晴らしいのだが、実際はそのほぼ正反対が現実である。テスコなどの数少ない例外を除いて、データ解析、そこから導き出される洞察を利用した意思決定は、大半の小売組織のDNAには組み込まれていない。従って反発が激しくなることも考えられ、それまでと異なる方法で物事を進めることへの反対意見が多く聞かれる場合もある。ある小売企業の経営幹部がかつて話したように、「データが示していることを信じるなら、私の行動を見直す必要がある」ということである。

 データ解析を企業文化に取り込むことを使命としたリーダーが変革を率先することでしかこうした組織にはびこる惰性を克服することは出来ない。カート・サーモンの経験によると、データ解析にから洞察を導き出すよりも、企業文化および実務慣行の変革を後押しするのに、膨大な時間を企業が費やすということも珍しくない。

3. 「適切な」データ解析チームの構築

 データ解析がもたらす価値を成功裏に引き出す小売企業になるための答えは、単に多くの博士号保有者を採用することではないと先に述べた。しかしながら、データ解析チームに優秀なデータ・サイエンティストを置くことの重要性は、誇張してもし過ぎることはない。そうした人材には専門的スキルと複雑なデータ解析の問題を解くという知的好奇心のほか、単にモデルを構築するのではなく、ビジネスインパクトを達成するという意気込みが備わっている必要がある。

 また、高い成果を出しているデータ解析チームが、データ・サイエンティストの役割をデータ解析との連携へと幅を広げる動きもみられる。多くの場合、そうした人材は専門知識をビジネス感覚に結び付けることが可能である。彼らは、より規模の大きい組織への橋渡し役として機能し、さらに重要なことに、データ解析が事業にインパクトをもたらすよう責任を担う。この窓口担当者は、ビジネスに係る新たな事業機会の創出を後押しし、そのために欠かせない洞察を明らかにするためにデータ・サイエンティストと連携し、その洞察を関係する経営判断に結び付ける。

 こうしたスキルを併せ持つことで、データ解析チームはビジネスと完全に一体化することができ、重要な事業上のニーズおよび経営判断に集中できるようになる。データ解析チームは経営陣に代わって意思決定するのではなく、むしろ、より賢明な判断を導き出すために経営陣と連携するのである。昔の広告文句を借りて言うなら、データ解析チームは「意思決定するのではなく、より賢明な意思決定を後押しする」のである。

4. データ解析の日常業務への組み込み

 優れた運用により、データ解析はより優れた意思決定を可能にし、組織全体に影響を与える。そのためには、その組織内の機能グループの垣根を越えた重要な意思決定プロセスに、データ解析を組み込む必要があるということになる。例えば、顧客に関する洞察を活用してその地域に合った品揃えを構築する店舗や、顧客の価格感応度に基づいてターゲットを絞った販促活動の規模を調整するマーケティング担当者、天気予報に基づいて商品の割当を特定の店舗にシフトさせる在庫管理責任者などが例として挙げられる。一歩離れて見てみると、小売企業がデータ解析を活用して売上高や利益を増やす機会が、数え切れないほどあることが容易に分かる。

5. テクノロジーへの賢明な投資

 マイクロソフトのエクセルは多くの小売組織にとって引き続き万能なツールだが、データがもたらす価値を十二分に引き出すには、エクセル以上の適切なテクノロジーが要求されるというのが現状だ。有難いことに、テクノロジーは以前よりも成熟してきており、コンピュータの処理能力やデータ容量のコストは下がっており、また、サービス型ソフトウェア(SaaS)のような新しいデリバリーモデルにより、企業は必要なテクノロジーに以前よりも容易にアクセスすることができる。企業はテクノロジーへの投資が必ず十分なリターンを生むようにするため、データ解析チーム、実際に業務で使うエンドユーザー、IT部署間の協力的関係を構築する必要がある。

 この協力的関係では連携を図りながら、まず次の3点を明確に特定する必要がある。すなわち、最終的な事業上の機会、その機会を実現するうえでの現在のハードル、そうしたハードルを越えるのに必要な機能がそれら3点である。それから初めて、必要なテクノロジー投資に関するロードマップと投資対効果を策定・検討すべきである。こうすることで、組織、そして何より最高経営責任者(CEO)および最高財務責任者(CFO)に、投資は成功だったという自信が芽生えるだろう。

 データ解析への投資がリターンを生むのは間違いない。ただリターンを必ず得るようにするには、データ解析をより大きな組織に取り込み、企業文化に根付かせ、明確な事業上の目標に組み込み、重要な戦略的決定を後押しするために使用する必要がある。高度なデータ解析能力を構築する小売企業がますます増え、より多くの顧客が企業の個人仕様のサービス提供を期待するようになったため、対応が遅い企業はあっという間に取り残されてしまうだろう。

データ解析思考は必要ない?

 データ解析はオンライン専業の小売企業のためのみのものではない。あらゆるセグメントに属し、販売チャネルを利用する小売企業の多くが、データ解析の力を利用するのに成功している。

  • メイシーズ

 全米に店舗を展開し米国の70%が毎年買い物するメイシーズは、あらゆる顧客に必要とされるという課題を抱えていた。しかし、My Macy’sプログラムを利用して膨大な顧客情報を蓄積し、地域に合った店舗の品揃え、および電子メールやモバイル機器を通じたターゲット顧客へのタイムリーな情報発信など、個人仕様の顧客体験を創り出すことが可能になった。

  • セイフウェイ

 食料品店のセイフウェイはこの程、顧客の購入パターンに基づいてカスタマイズした販売促進を実施すると発表し、その販促活動に個々人の価格感応度に応じた個別の価格設定を含める可能性があると示唆した。

  • シアーズ

 多くの小売企業が、少しばかりの市場競争調査で補完した過去のデータに基づき価格設定を行っているのが通常だが、シアーズは、Hadoopベースのデータ解析プラットフォームを利用して、数百万もの商品の最適価格を毎週、場合によっては毎日決定している。

  • アマゾン

 言うまでもないが、アマゾンに言及することなくデータ解析を語ることはできない。株主へ先ごろ送付した書簡においてアマゾンCEOのジェフ・ベゾスは、経営判断を後押しするための高度なデータ解析投資に関する持論を展開している。「我々の全チーム、全プロセス、意志決定、各事業における革新アプローチはテクノロジーが後押しする」。アマゾンはそうしたアプローチの結果、顧客データを用いた検索結果の個人仕様化、推奨商品の提案、不正防止、最も効果的なマーケティングチャネルの決定、様々な商品の補充・調達・能力・在庫投資の決定に関するサポートに成功している。

著者

カート・ケンドールはカート・サーモンのパートナーであり、データ解析の実務リーダーを務める。グラハム・ポリニア(Graham Poliner)はカート・サーモンのマネージャーであり、大手小売企業のデータ解析戦略に関する助言を提供している。

 

2012-9-11