J.C.ペニーのロン・ジョンソンCEOは最近、RFID(Radio Frequency Identification:無線ICタグ)の全店導入を発表しているが、この計画は同氏が就任から実行している一連の改革の中ではさして先進的なものとはいえない。

 事実、メイシーズ、ロード&テイラー、サックスといった大手百貨店はRFIDの導入を検討中、あるいはすでに実施しており、RFIDの時代がついに到来したようである。

 なぜ今、RFIDなのか?導入コストが下がったからというのが一般的見解だが、カート・サーモンはほかにも理由があると見ている。RFIDがにわかに大きな注目を集めているのは、オムニチャネル*1・リテーリングの基本要素だからである。小売企業は、現在ウェブ上に存在する優れた販売・促進機能(たとえば、買い物かごの中身や位置情報に応じて提案や販促を個別化する機能)と同じものを、モバイル端末や実店舗に導入したいと考えている。だがそれを実現するには、どの店舗にどの商品の在庫があるかを正確に把握しなければならない。RFIDの導入が多くの百貨店で進むに従い、RFIDは競争優位性というよりも戦略上不可欠なツールになった。課題は既に導入コストにはなく、他社が提供している新たな小売ショッピング体験を自社が提供できないために、市場シェアを失う というリスクにある。

 周知のとおり、百貨店もその競合となるオンライン専門企業もオンラインストアを構えており、従来型小売企業の販売は実店舗からオンラインへとシフトしつつある。オンラインサイトには百貨店が運営するサイトと、そのライバルであるオンライン専門企業のサイトがある。

 米国のオンライン販売は2011年に過去最高の2,020億ドルに達し、フォレスター・リサーチの予測では2016年までにさらに62%拡大する。百貨店もその傾向と無縁ではなく、2011年のオンライン販売ではメイシーズでは40%も伸び、コールズでは37%、ノードストロームでは30%増加した。

 ほとんどの既存店の売上が低迷を続ける一方で、オムニチャネルがとてつもない成長のチャンスであることは明らかである。自社ウェブサイトから遠く離れたFacebook、Twitter、Pinterestといったソーシャルメディアが購買の出発点になるケースが増えている。

 ただしオンラインチャネルは、従来型店舗を展開する小売企業にとって大きな課題も提示する。オンライン専門企業はすべての在庫を物流センターで保管するので、概して99%以上の精度で在庫を把握している。一方、実店舗販売の企業は在庫の大半を店舗に置いているため、単品レベルでの在庫把握率は低く、80%に満たない場合も多い。つまりオンライン専門企業は、根本的なビジネスモデルの違いから、より良い顧客体験を提供できる。具体的にはSKU単位での正確な在庫数の把握により、受注後のキャンセルで顧客を失望させるようなケースが減るからである。

 一人一人に合わせた包括的ショッピング体験を個々人に向けた魅力的な提案と販促を通じて創り出すことは、同様のショッピング体験を提供するオンライン専門企業に百貨店が対抗するための最強の武器となる。comScoreの調査によると、アマゾンのコンバージョン率は4%と百貨店平均2.4%の倍近い。また、顧客が同年中に再購入する割合は、百貨店の54%に対しアマゾンは78%に達する。こうした差は当然の結果といえよう。

 どの在庫がどこにあるかを正確に知ることは、今日の百貨店に必須でありながら欠落している能力であり、またダイナミックな店舗体験を実現するための重要な第一歩でもある。だからこそ今、各社が単品レベルのRFIDの導入を急ぐのである。

 オムニチャネルを実現するメリットは上記にとどまらない。小売企業が単品レベルのRFIDを導入することには、たとえば以下の効果がある。

 ・ 在庫精度向上による欠品の減少と販売の増加:

 不正確な在庫データは店舗における商品補充の遅れを生み、それが顧客の失望や販売機会ロスにつながる。RFID導入により即座に欠品を把握し、速やかに補充し、他店舗や物流センターから直接顧客の自宅に発送が可能になる。

 ・ 顧客の購買体験の改善とロイヤルティが向上:

 RFIDにより店舗スタッフは棚卸しなどの単純作業から解放され、より顧客サービスに注力できるようになる。販売員は時間をかけて特定の商品を顧客に勧めることができ、しかもその商品がどこにあるかも正確に把握している。このようにして、接客の付加価値をあげることで、その顧客が再び来店し再度購入する可能性が高まる。

 小売企業はすでに初期実験で大きな成果を収めつつある。メイシーズは8月から、旗艦店であるヘラルドスクエア店の靴売場を皮切りにRFIDを正式展開している。メイシーズでの試験導入では、RFIDタグ付き商品の売上伸び率が50%向上した。しかしそれ以上に重要なのは、同一商圏内で、RFIDタグのない商品の売上の伸び率が、タグ付き商品よりも大幅に下回ったことである。

 RFIDは売上に大きなインパクトをもたらすと同時に、顧客体験全般の改善、および顧客ロイヤルティの向上につながることは明らかである。そして近い将来、顧客はより多くの変化を目にすることになるだろう。モバイル型のPOS、SNS、および位置情報の提供やサービスが、すでに買い物のあり方に影響を及ぼしている。RFIDはモバイルと社会的な申し出によってできた信頼できるプラットフォームである。顧客が簡単にアクセスし、常に在庫があるという新しい接点を通して、商品が確実に提供されるのである。

*1モバイル・ネット・店舗・TVショッピング・カタログ等の販売チャネルが包括的に一元化されている状態