ご存知のとおり、小売業界は急速に進化している。消費者は今までにない幅の選択肢、アクセス方法や情報を手にしており、その結果、お気に入りの小売企業にさらに多くを期待するようになった事実には異論を挟む余地はないだろう。その流れについていけず、顧客の嗜好にあった製品、地域に合った品揃えや、店舗での魅力的な顧客体験を通して付加価値を提供できない企業は、急速に顧客とのつながりを失っている。

 しかし、そのように遅れをとってしまった店舗が息を吹き返し、また現在人気の店舗がその成功をどう持続するかに関しては、議論の余地がある。

 「未来の店舗とはどのようなものだろうか」という問いに答えられる人は誰もいないのが実情である。今分かっていると思い込んでいる人も、技術、人口動態、行動様式の進化のペースがあまりにも早く、すぐにその答えの有効性が失われていることに気づくだろう。

しかし、未来に何が起ころうと常に革新を起こすプロセスを備えた組織が、成功に最も近い立場にいるのは間違いないだろう。決まり文句だが、大切なのは、成功というゴールではなく、そこにたどりつくまでのプロセスなのである。

 カート・サーモンが最近行った、様々な小売分野のトップ25社の経営幹部とのインタビューから大きな問題が浮き彫りになった。第一に小売企業の56%が店舗を革新するプロセスを持っておらず、プロセスを持っていても革新のスピードは遅く、一貫していないという。何が障害なのだろうか。

 一つには、小売企業のほとんどが、綿密で継続的な店舗の革新プロセスを実現する組織構造を持っていないことが挙げられる。さらに状況を悪化させる要因として、52%が「顧客体験」が正確に何を意味するかさえ全社的に定義していない。そして68%がチャネルや機能を横断的に管理する責任者を決めておらず、一貫した顧客体験を提供したり、機能グループ間の利益相反を調整することができていない。

 そして今日では、革新を実施するには長い時間を要するため、実行に移す段階では陳腐化してしまうアイデアも多い。いくつかの小売企業では、たった一つのコンセプトを発展させ、テストし、最終的に店舗ネットワークへ展開するのに4年もかかったケースもある。さらに企業が注意を払わなければ、特に大幅な店舗デザインの見直しや、技術変更の試験運用、プロセスにおいて多額の費用がかかる場合がある。

 さらに、正確なROI(投資収益率)や店舗変革の成功度合いを評価することの難しさも考慮すると、多くの小売企業がこれまで継続的な店舗革新プロセスに注力することが困難であったかは容易に理解できる。

 しかし驚くべきことに、多くの企業は既に社内の商品開発グループにおいて、迅速かつ効果的な商品開発プロセスのための完璧な青写真を持っている。

 多くの消費財企業はイノベーションとは何かを確実に理解していると言える。実際、フォーブス誌の「世界で最も革新的な企業」のトップ50社のうち、21社は消費財企業であり、小売企業はたったの5社である(そのうちの3社、ハーシーズ、エスティローダー、アップルは、以前は小売企業ではなく消費財企業に分類されていた)。さらに、ますます多くの消費財企業が自前の小売店舗をオープンさせており、伝統的な小売企業は更なる競合にさらされることになる。

 小売と消費財企業では何が違うのだろうか。多くの小売企業は現在、店舗体験を革新する際に、CEOが言及した可能性が高い1つのアイデアから始め、長い道のりを経て実行するといった、直線的なアプローチをとっている。しかし、そのアプローチには、最終的に実行されるのが最良のアイデアではなく、実行するために時間と費用を無駄にし、より洗練された競合他社に比べて、自らの顧客体験の評価をさらに落とすかもしれないリスクが存在する。

 一方で商品開発者は最新のアイデアも顧客や従業員の洞察、業界の大きな動向、ブランド・ビジョンに対する強い意識に基づいている、25あるいはそれ以上の数のアイデアからスタートし、詳細レベルで設計されたプロセスを通して候補を絞り込み、最良のアイデアを選び出す。

 商品開発者による店舗革新アプローチを成功に導いているのは、以下の7つの主要な特徴である。

1. 洞察に立脚。商品開発者は、消費者や従業員の洞察や、より広い業界動向を統合してアイデア化するため、小売企業内の他の組織に比べて確固たるプロセスを持つ傾向が見られる。多くの企業では、顧客への洞察を収集、社内の他組織へ伝える役割を担い、深い洞察に基づく顧客特性を分析する顧客分析部隊を設置し、この問題に取り組み始めている。

 大手小売企業は、消費者調査を実際に役立てるべく、新技術を定量分析結果以上に活用している。例えば、あるアパレル専門の小売企業は、自社のソーシャル•メディア•サイトを通じた顧客との継続的な対話を利用し、商品や色についての意見や洞察を集め、秋の新作に役立てる予定である。また、ある化粧品の小売企業は新商品アイデアを考えるブレーンストーミング・セッションを、顧客とバーチャルな空間で実施している。

2. ブランドによるフィルター。もちろん、消費者、従業員、市場の洞察は、魅力的な店舗体験を作るための非常に強力なツールだが、全ての店舗体験は、最終的には小売企業のブランドに忠実でなければならずアイデアを検討・評価する際に通すレンズとしてブランドを利用する必要がある。このステップは、スティーブ•ジョブズのような明確なビジョンを持った人物か、ブランドのコアバリューを守ることに全力を尽くしているCMO(最高マーケティング責任者)かに委ねる、ブランド全体と事業展望に連携した不可欠な革新であることを担保しなければならない。

3. 系統的。優れた革新プロセスは、店舗体験だけでなく、店舗の壁を越え組織全体に影響をもたらす。提案された店舗革新が、他のチャネルにおける顧客体験にどのように影響するか、商品施策力や販売施策決定にはどうか、在庫戦略にはどうか、などの問いに答えようとすることが必要である。

4. 連続性。いつ破壊的革新技術が開発されるか、また、いつ消費者の行動が突然変わるかは、本当のところ誰にもわからない。従って小売企業は、継続的な革新プロセスにより、取り残されるリスクを最小限に抑えようとする。継続的な革新とは、ある革新を実行するとき常に、20~30の別のアイデアを議論する準備が出来ていて、さらにいくつかのアイデアは実効性確認のテストに移っている状態をさす。または、既に展開している革新的なアイデアをさらに発展、強化することである。

5. スピードと効率。どんなに斬新な革新でも、実行するまでに4年もかかれば役立たなくなってしまうだろう。また、どんなに最良のアイデアでも、テストするのに法外にコストがかかれば、実行に移すことはできないだろう。その事実は最終段階では失敗するアイデアを考えるときに特に意味を持つ。1つの素晴らしいアイデアの影には、20の冴えないアイデアがあり、小売企業が冴えないアイデアに早く見切りをつければ安上がりにより短時間のうちに本当に素晴らしいアイデアにたどり着けるだろう。

6. 全プロセスにおける1人の専任責任者。小売企業のブランドと企業の目指すところについての包括的なビジョンを備え、革新プロセスのなかでアイデアを先導する責任者を決めることは不可欠である。前述したように、多くの小売企業には、実店舗とオンライン店舗で異なる責任者がおり、それが複数チャネルにおける一貫した体験を保つことを難しくしている。さらに、ほとんどの小売企業には包括的な責任者やビジョンが存在しないため、店舗体験の革新が、マーケティング、店舗運営、IT、顧客洞察部門間の主導権争いのようなものとなっている。

 カート・サーモンが実施したインタビューによると、経営幹部が前面に立ち最終責任者となることがベストプラクティスであるといえる。なぜなら、変化の大きさと、必要とされる経営資源には、組織の上層レベルからの支援が不可欠だからである。そして、このプロセスの責任者は、調査や、テスト、所見に関して、マーケティング、分析、店舗チームとしっかりと協力しなければならない。

 いくつかの小売企業は店舗体験を革新する際の障害として、過去の損益と組織の構造的な指揮系統の問題に言及している。チャネル売上高や販促費をどの部門にどのように計上するかによって、顧客と小売企業全体にとっては利益になるものの、現在のレポ―ティングと評価方法に反すると見なされかねない変化に対しては、直感的に違和感を覚えるような抵抗が社内で起こるかもしれない(その例はオンラインショッピングに対するストアクレジットなどである)。これらの障害の中で革新を推進するには、明確なビジョンに基づいて主導する、複数の部門を管轄する経営幹部の強力なリーダーシップが必要である。

 専任責任者を設置することは、つまり専用の予算の割り当てを意味する。カート・サーモンがインタビューしたほとんどの小売企業は、顧客体験の継続的な革新のための専用の予算が不足しており、革新はしばしば、個別のROIが求められる単独の作業としてスタートし、テストされ、実施されていると答えている。しかし、ベスト・プラクティスは、顧客体験の革新のためだけに一貫して使用できる継続的な資金を確保することであり、顧客体験の革新の可能性をコスト削減のために既存店業務コストの犠牲にしないことである。

7. 綿密な評価。当然のことだが、確固としたプロセスが存在する時でさえ、最良の革新を実行するためには、成果を正しく評価・解釈することは欠かせない。小売企業は、店舗体験の革新に関するROIと、その一般的な成功度合いを様々な手法で評価している。

  • 売上高の増加。インタビューした複数の小売企業が、店舗改革の結果、店舗売上高が20~30%増加したといった例を挙げている。これには、個人仕様の商品購入をサポートする新たな顧客との対話(例えばスキンケア製品の推奨)や、劇場型ショッピング(チョコレート・ファウンテンを導入した菓子店)を利用した戦略も含む。実際のROIは、来店頻度の増加に伴う売上高や、もっと一般的なコンバージョン・レート(来店者数に占める実際の購買者数の割合)の上昇とバスケット(客単価)の拡大に結び付けて評価される。
  • ロイヤルティプログラム。これを提供する能力には企業の間で差がある。非常に高度なロイヤルティプログラムを持つ小売企業もあれば、適切なプログラムをサポートする技術的能力や、消費者が利用できるプログラムの急増の両方で苦労している小売企業もある。しかし、成功した企業群をみると、主要な店舗革新の結果、最も忠実な顧客の購買頻度、計測可能な売上高、収益性の上昇が報告されている。
  • 消費者とのインタラクションの時間と頻度。複数の小売企業が、新しいタイプの顧客体験例を挙げている。この顧客体験では、顧客と商品に接する時間が増え、店舗内では顧客滞在時間が長くなり、店舗外ではソーシャルメディアプラットフォーム上で刺激的な議論がもたらされたといった効果が表れている。オンライン店舗であればインタラクションの時間やそのレベルは評価しやすいが、上手に設計された店舗での顧客体験にもそのような指標は存在するため、事前テストの際には評価し、改善すべきである。

 これらの様々な指標が示すのは、伝統的な小売企業を取り巻く環境においては、適切にROIを評価することは難しいという点である。デジタル・リテールによって今日のスプリット・テスト、コホート分析とファネル分析の手法がもたらされたが、ROIと同様のツールは物理的またはオムニチャネルの世界にはまだ存在しない。しかし、ビデオのように引き続き技術が成熟し、消費行動分析とジオフェンシング(仮想のフェンスを特定の物理空間の周囲に作り、その近辺や内部の動きを観測する)によって、消費者が特定の店舗エクスペリエンスにどのように反応するか、を理解することがますます容易になるだろう。

 実際、すべての小売企業は、それらの体験がどのようになるか、正確に把握したいと考えている。しかし、大手企業は、体験を提供した結果よりもその提供手段に焦点を当てている。革新に成功する小売企業は、クロスチャネルの顧客体験を管理する責任者を決め、継続的な革新プロセスを構築し、成功の評価手法を導き出し、特に顧客体験の革新のためだけに、継続的に資金を投入するだろう。これらのステップにより、小売企業は効率的かつ需要に敏感になり、未来に何が起ころうと、成功に最も近いポジションにいるのは間違いないだろう。

 

筆者

マディソン・ライリーは、世界の大手小売企業と消費財企業に30年以上にわたり助言を行ってきた経験を持っている。