テクノロジーが我々にもたらした大きな変化により、テクノロジーの力をより一層重視する世界が訪れています。 ニュース、音楽、広告、クレジットカードに至るまで、あらゆる業種の企業がこれまでとは比べものにならない量の顧客データを使用し、パーソナライズされた商品提案や購買体験を築いています。

そのため、パーソナライズされたレベルでの顧客との関係構築を、リテーラーはより一層必要としています。そしてそれを実現する為に、リテーラーは顧客による店舗訪問や流通チャネル、および販売ロケーションなどの事業におけるさまざまな事業範囲で、広範なパーソナライズされた顧客関係と購買体験、つまりOne to Oneリテールを実現しようとしています。

今まで、このようなパーソナライズされた体験は主にオンラインで実現されてきました。オンラインではテクノロジーによって、顧客セグメントレベルから顧客個人レベルへと、マーケティングのパーソナライズ化が実現されています。 また、リテーラーのWebサイトの中でも、リピート客の特定、顧客のソーシャルネットワークへのアクセス、商品提案のための予測分析の活用、価格設定またはプロモーションのパーソナライズを実現できるサイトが増えています。

このようなOne to Oneマーケティングへの取り組みは、オンラインでの利益をもたらしてきました。 広範囲な業界を対象として行われたある調査では、One to Oneマーケティングによってクリックスルーが62%も増加したことが明らかになりました。 リテールの例としては、アマゾンは売上の59%をリピート客から上げており、これは従来の競合の2倍近い数値となっています。これは、アマゾンが自社サイトのパーソナライズされた購買体験を向上させるために高度な分析を活用している恩恵とも言えるでしょう。 また、アマゾンの顧客転換率が大多数の競合の約2倍であるという、コムスコアの分析結果も驚きではありません。

パーソナライズ化へのトレンドの中で、コンバースやエム・アンド・エムズのようなリテーラーおよび有名ブランドは、パーソナライズされた製品を提供する能力を飛躍的に向上させてきました。

しかし、残念ながら最も基本的なパーソナライズされた購買体験さえ、ほとんどの実店舗では提供できていないのが現実です。チャネル間にわたるシームレス(つなぎ目無く)でパーソナライズされた購買体験を提供することは、小売業界最大のチャンスの1つですが、現実には店舗でパーソナライズされた購買体験の提供は終息してしまう事が多いのです。

いままでの経緯:

2000年代初期にCookieとJavaScriptの登場がパーソナライズされたデジタルマーケティングを実現した様に、新しいテクノロジーはOne to Oneの購買体験を経済性を担保しながら実現することで、店舗での購買体験にオンラインで起きたものと同じような革新をもたらそうとしています。

One to Oneリテールとは、顧客がリテーラーと接する場所・タイミング・方法に関係なく、顧客一人ひとりに合わせてパーソナライズされた方法でリテーラーが顧客対応することを意味します。では、顧客の視点から見たOne to Oneリテールとは、いかなるものでしょうか。

1. 顧客の好みや購買履歴などの情報から、店舗を訪れているのがどのような顧客であるかを、顧客が実際に店内にいる間に店舗は把握できる。

2. 店内にいる顧客が手にしている商品を店舗が把握できる。

3. オンラインと同様の内容豊富なブランドイメージの伝達や、オンラインで実現されているようなソーシャルメディアを通じた共有体験を店舗が提供できる。

4. 顧客に店内のテクノロジーを利用してもらうことで、嗜好に関する履歴や、買い物かごに入っている商品、店舗の場所や在庫情報を基にパーソナライズされた商品提案を顧客に提供できる。

このようなパーソナライズされたメッセージを提供することで、強い競合優位性を実現することが可能となります。言うまでもなく、米国は現在、店舗過剰の状態であり、限られた顧客の財布をリテーラーが奪い合う競争が激化しています。 既存資産を活用しながら生産性を高めることができるリテーラーが、この競争の勝者となるでしょう。 私の同僚であるマイケル・ダートは、彼の著書「 The New Rules of Retail (小売業の新しいルール)」で、脳科学的なレベルで顧客とのつながりを築くことで生産性を高めるというケースを多数取り上げています。 このようなパーソナライズされた購買体験と顧客関係を築くと同時に、 他の店舗では購入できない商品や特別なプロモーションを提供することで、コモディティーである商品カテゴリーでのショールーム化を回避し、差別化されたリテーラーに対する顧客ロイヤルティを向上させることができます。

多くのリテーラーは、店員の負担を減らすことがクロスセリングや顧客対応の向上につながるという前提の下で、モバイルPOSなど、リテーラーの店員だけが使用できるテクノロジーの導入を急いでいます。 しかし、モバイルPOSテクノロジーでは、購買率やバスケットサイズへの影響に限界があります。 代わりにカート・サーモンでは、One to Oneリテールによる顧客とのパーソナライズされた関係構築を実現するため、 顧客によるテクノロジーの利用を優先するよう、リテーラーに推奨しています。

広範囲にわたるファッションリテーラーを対象としたカート・サーモンの最新の調査では、最も基本的なレベルでの顧客関係の構築でも、顧客が商品を試着する確率が9倍増加することが明らかになりました。 また、52%において、顧客は試着した商品を実際に購入しました。 スタッフ配置率を単に増やすことに依存しない、テクノロジーが実現する統合的にパーソナライズされた購買体験によって、どのようなことが実現されるかを想像してみてください。

リテーラーが最も優先すべきことは、顧客との接点になるテクノロジーを最大限活用して、顧客との関係の質の向上に重点を置き、パーソナライズされた体験を提供することです。

なぜ今One to Oneリテールを実現するべきなのか:

これまで、One to Oneリテールを実現しようとすると、顧客との密接な対話を実現し、顧客一人ひとりのニーズを理解して、顧客がリテーラーのブランドや商品を見て回るのをサポートするためには、店員と顧客の比率が1対1である必要がありました。 そのため、One to Oneリテールは自動車や高級ジュエリー、高級ファッションのような高額商品に限定されてきました。

しかし、CookieとJavaScriptの登場によってもたらされたパーソナライズされたデジタルマーケティングの実現と同様の革新により、様々な新しいテクノロジーを活用し、リテーラーは実店舗での購買体験を劇的に進化させ、大規模な店舗ネットワークについて費用対効果が見込めるようになりました。

この新しいテクノロジーは、実際の小売現場でOne to Oneリテールを実現するために必要な3つの主要な機能をリテーラーにもたらしました。

1. 顧客の情報および店内でショッピング中の顧客位置を把握する機能

2. 店内で顧客が手にしている商品の把握する機能

3. 顧客が店内にいる間にその場所や履歴に適合した、パーソナライズされた商品提案、サービス、スペシャルオファーを伝える機能

1. 誰がどこでショッピングしているか?

ジオフェンス、つまり物理的スペースの周囲に仮想の"フェンス"を作ってフェンス周辺または内部の動きを監視することにより、リテーラーは店舗の周囲や店舗内での顧客の動きを把握することが可能になります。

この機能をロイヤルティアプリやスマートカードと組み合わせることで、顧客とのコミュニケーションをパーソナライズするために必要な情報を得ることができます。 この機能は、顧客が店舗の周囲にいるときや入店するときに合わせてスペシャルオファーを提供するだけではなく、店舗内の任意のディスプレイや試着室にまでその顧客向けのスペシャルオファーを表示させることができます。 店内にいる顧客の情報を把握することで、リテーラーは各個人の購買履歴や顧客プロファイルを利用し、商品提案、ビジュアルマーチャンダイジングやプロモーションをダイナミックに変化させることができます。

2. 顧客はどのような商品、ライフスタイル、およびサービスを求めているのか?

店内でRFIDを利用することで、リテーラーは各顧客が手にしている商品、または特定の時間に試着または試用した商品を正確に把握できます。 それだけでなく、RFIDにより、店内や店舗奥の在庫にどのような品目、サイズ、スタイルの商品があるかを正確に把握することもできます。

前述のジオフェンスされたロイヤルティアプリやスマートカードをRFIDと組み合わせることで、リテーラーはJavaScriptやCookieがデジタルリテールの世界で実現させた膨大な数の商品提案やスペシャルオファーの実現を可能にするツールを手に入れることができます。 また、コストが10セントに満たないRFIDを使用することで、RFIDはOne to Oneリテールをサポートする安価なソリューションの1つとなっています。メイシーズやサックス・フィフス・アヴェニューなど、業界トップレベルのリテーラーがRFIDの導入を急いでいるのはそのためです。

3. 商品提案やスペシャルオファーをどのように伝えることができるか?

実店舗の環境を、オンラインの環境と同様の内容豊富にパーソナライズされたものにする最後の要件は、ダイナミックなコンテンツの表示と双方向コミュニケーションを実現するディスプレイの導入です。 わずか1、2年前まで、実店舗でバーチャルリアリティーを体感できるディスプレイを設置し双方向コミュニケーションを実現することは、非現実的なコストがかかりました。 また、前述の「誰が何を」という要素を実現しなければ、デジタルサイネージを設置したリテーラーでさえも、One to Oneリテールとしてパーソナライズされた顧客関係の構築を実現できませんでした。

しかし現在、ディスプレイのコストは急速に低下しています。これは、ディスプレイ(特殊静電容量方式のタッチパネルやタブレットなど)や省電力通信機器(Bluetooth 4.0やRFIDなど)の飛躍的な革新によりもたらされたものです。 リテーラーは現在、双方向コミュニケーションを実現するディスプレイを短時間かつ低コストで設置できます。 より重要なことは、パーソナライズされた購買体験によって売上と利益が大幅に向上することで、これらの投資を実現するために必要な資金を惹きつける投資利益率を実現可能にするという点です。

舞台裏で行っていた分析を店舗で行う:

長年、リテーラーは、顧客一人ひとりが自社のWebサイト全体をどのように閲覧したかを分析できたため、分析から得た知識を適用して、より優れた購買体験の実現と顧客転換率の向上に役立ててきました。現在ではテクノロジーにより同様の分析が、ビデオ、モバイル、および商品 / RFIDの分析を通じて、店内で実施できるようになりました。 顧客一人ひとりの店内での動きを追跡すると、店舗レイアウト設計の向上につながります。店舗のどのエリアで人が少なすぎるか、多すぎるか、店員が不足しているか、などの問題を示すデータを分析することで、より良い店舗レイアウトやより双方向的な購買体験を実現することができます。 しかも、今後は従来の定期的な店舗レイアウトの再設計ではなく、分析に基づくリアルタイムでの意志決定が実現されていくことでしょう。

3つの大きな利点…

One to Oneリテールとしての購買体験を築くことで、顧客との関係が向上します。 これにより、店員がメリットを享受するテクノロジーのみを導入した場合よりも、はるかに多くの顧客のトラフィックの増加、購買率の向上、バスケットサイズの増加が実現できます。

顧客のトラフィック:

One to Oneリテールで成功を収めるリテーラーは、ターゲットとなるイベントやプロモーションでの集客のために、統合されたチャネルでのコミュニケーションを実施します。その結果、非常に強烈なバーチャルリアリティーを体験した顧客を店舗で獲得することが出来ます。新しい購買体験を求める顧客のトラフィックは増加し、さらにロイヤルティの向上によりリピート率が向上します。

購買率;

店内で顧客とリテーラーとのコミュニケーションが長いほど、商品を購入する可能性が高くなります。 例えば、ファッションリテーラーにおける顧客行動を対象としたカート・サーモンの調査では、顧客の45%が店内に入って2分以内には商品を手にすることも、店員と接することもなく店を出て行くことが明らかになりました。 しかし、店員と接したり、商品を手にしたりした場合、顧客の商品の試着や試用の確率は9倍も高くなりました。また、52%において、顧客は試着した商品を実際に購入しました。 つまり、店員が接する顧客の数を30%増やすだけで、リテーラーは購買率を50%増加できると言えます。

バスケットサイズ:

One to Oneリテールでは、実現されるアップセルの頻度の増加、および提案する代替案の質の向上という2つの異なる方法で、バスケットサイズを拡大します。 現在、実店舗による購買体験では、補完機能のある商品やより高級な商品を顧客に周知させるという、困難な作業を行っています。

デジタルリテーラーは、代替商品や補完機能のある製品による『コーディネイト(例: 組み合わせ)』を顧客が100%認知するように仕組みを構築できます。しかし、前述のファッションリテーラーの店舗では、アップセル率はわずか8%~15%でした。この数値は、経営陣の予測より大幅に低いものでした。 リテーラーがアップセルを実現するための時間をかけられるよう店員の増員などの対策を行った場合、追加の商品を提案された顧客の購買率は75%に上り、平均バスケットサイズは25%増加しました。 8%~15%であったアップセル率がこのように増加した場合の利点は、非常に大きいと想定されます。 また、店内で顧客が手にした商品の情報と顧客の購買履歴を組み合わせることで、これらの提案をダイナミックに調整することが可能になります。 シームレスな終わり無き陳列棚(i.e., Endless Aisle)戦略に基づいてフロアや試着室で商品提案を行うことは、各リテーラーのインストア戦略に含めるべき項目です。

しかし、ハードルは残ったまま

複数のチャネルにわたるOne to Oneリテールの導入を成功させると、大幅な変化がもたらされます。この変化は店舗内だけに留まりません。実際のところ本質的にパーソナライズされたOne to Oneの購買体験を生み出す上で最大の難関は、店舗運営とは別の所に存在します。

» 組織的構造:

ほとんどのリテーラーは、複数のチャネルにわたってのOne to Oneリテールをサポートするための組織構造を持ちません。 たとえば、カート・サーモンが最近行った、リテーラー25社の経営幹部とのインタビューでは、大きな問題が浮き彫りになりました。まず、56%が「複数のチャネルにわたる顧客サービス」が何を意味するかさえ全社的に定義しておらず、68%がチャネルや機能を横断する顧客体験を管理する担当者を決めていませんでした。 このアプローチでは、各チャネルの成長が個別になってしまい、全てのチャネルで共通の体験を提供することが困難になります。それだけでなく、チャネル/タイミング/ロケーションという要素を横断する、マーチャンダイジング、マーケティング、価格設定、プロモーションの調整はほとんど不可能になります。

このような非効果的な組織の対照的な例として、ギャップがあります。ギャップは、チャネルにとらわれないアプローチを導入するために最近、組織の再編成を行いました。 この変革により、北米事業部、国際事業部、オンライン事業部、アウトレット事業部、フランチャイズ事業部は、各ブランド下のグローバル本部の下に一元化されます。

» マーチャンダイジングとプランニング:

リテーラーは、ローカライズされた品揃え、需要の予測、店舗のビジュアルマーチャンダイジングを検討する方法を本質的に変える必要があります。パーソナライズされた購買体験を築くには、既存の価格設定戦略を再精査し、パーソナライズされたプロモーションや特定商品カテゴリーによってはダイナミックプライシングを検討する必要もあります。

» 情報技術(IT):

顧客との直接の接点となるテクノロジーと、すべての機能を稼働させる基本システムの両方で、これらすべての店舗改善点に対応するには、大幅な技術的アップデートが必要となるでしょう。 商品情報管理、分散型発注管理、顧客管理システムといったツールは、増え続ける膨大な量の顧客データを処理し、これらのデータを活用してより優れた意志決定を可能にします。

テクノロジーが既に存在するように、顧客によるパーソナライズされたサービスへ需要も確実に存在します。 人を惹きつける、パーソナライズされた購買体験の開発に取り組むリテーラーは、顧客の想像力と購入意欲をしっかりと掴むことでしょう。一方、これらの開発を後回しにしたリテーラーは、競合他社に追随するどころか、市場に残ることすらも困難になります。 当社が実施した小売企業役員への調査では、役員の52%が、2013年で最も投資額が大きくなる項目の1つは、購買体験の向上に向けた既存店舗の改修費用であると述べています。 パーソナライズされ、チャネルを横断する体験の構築を重視しないリテーラーは、これを重視する競合他社に追い抜かれてしまうでしょう。

【著者】

アル・サンバーは、約20年にわたり、世界トップレベルのリテーラーおよび消費者製品企業へのコンサルティング経験があります。 カート・サーモンは、このような新しい実質的小売体験を築くため、リテーラーや有名ブランドを積極的に支援しています。

 

2013-9-10