アシナによるチャーミング・ショップスの買収から、ゴルフタウンによるゴルフスミスの買収、コストプラスのベッド・バス・アンド・ビヨンドへの売却に至るまで、最近行われた小売企業の一連のM&A活動は、小売企業の合従連衡という大きなトレンドと一致している。目の肥えている消費者の財布を巡る競争が激しさを増す中で、多くの小売企業は、コストを抑えながら能力を向上させて市場での存在感を高め、オムニチャネルの売り上げを増大させる機会として、M&Aに注目している。

 戦略的買い手やM&A取引を仕掛けるディールメーカーの多くは、新規市場や新しい販路に素早く参入し、商品や能力を拡大し、あるいは規模を生かして収益を増加させるための方法としてM&Aを捉えている。

 売り手企業もおおむね同じ理由でM&Aを検討することが多い。事業資本を増強したり、新規市場へのアクセスを加速させたり、新しい能力の開発や資産の活用を行ったりするためにM&Aを考えている。

 これらの買収は、どちらの側の企業にとっても歴史的な転換点となり、経営陣のキャリアにとって最も重大な出来事であることが多い。確かにM&Aを通じて企業価値を非連続的に高めるという目標は高尚だが、失敗すれば重大な損害を被ることがある。はっきりした統計は公表されていないが、これらの買収の半数近くが、買収を決定した際に想定した価値向上をもたらすことに失敗していると推定される。

 サプライチェーンの統合は、非常に大きな失敗のリスクにさらされている。統合のメリットは非常に大きいが、失敗すれば壊滅的な損害を被る可能性がある。いかなる目的のためのM&Aについても、検討する際にはM&Aを確実に成功させるため以下の5つの重要な成功への鍵について検討しなければならない。

 

1.価値の創造にフォーカスする

 M&Aが行われるのは、当事者がその株主と顧客にとっての付加価値を見出すからである。その価値の追求こそが、買収を実施する唯一の目的であるべきである。それぞれの企業のM&Aに対するモチベーションを理解し、今後の道筋を綿密に計画すれば、M&Aを実行に移す前に成功の可能性を判断することが可能となる。

 当たり前のことかもしれないが、買い手企業は買収を検討する前に、自社の事業を徹底的に熟知しておくべきである。いかなるモチベーションによって買収案を推し進めているだろうか。特定の能力を取り込むことなのか、それとも市場浸透度を高めることなのか。

そうだとすれば、それは買い手企業の現在の能力や強みに適合するだろうか。被買収事業のサプライチェーンを、買収企業の事業に必要なレベルに引き上げるには、どの程度の投資が必要となるのか。多くの場合、小売企業は買収を完了させる段階に至っても、組織全体はもちろんサプライチェーンにとってですら、その買収がいかなる意味を持つかについて正確な理解を持っていない。

 売り手企業の側から見ると、準備が最も重要である。どのような能力や強みをもっているか、新たな組織にどのように適応すべきか、現行の機能や業務のうちどの部分を今後も維持していくべきかを、明確に把握すべきである。最後に、具体的な戦略目標や、より広い業界のトレンドの文脈で、なぜ今が売り時なのかを理解しなければならない。

 

2. 根本的な事項について最初に検討する

 鍵となるいくつかの問いに最初に答えておくことで、合併を成功させるための基礎を築くことが可能となる。どのプロセスが新企業において継続するのか?新たな組織はどのようなものになるのか?

 合併する2つの企業が異なる組織文化を持つ場合には、これらの問いに対する答えを初期段階で検討しておくことが特に重要となる。例えば、2010年の資生堂によるベア・エッセンシャル買収について考えてみよう。事業拠点である日本での売り上げの落ち込みを補う必要に駆られていた資生堂は、海外での売り上げを伸ばすためにベア・エッセンシャルを買収した。しかし、企業文化が異なり、社内での意思疎通が不十分だった結果、想定されたシナジー効果が買収当初には生まれず、買収直後の2年間で株価が30%下落したと『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は伝えている。ようやく最近になって、両ブランドは米国にある資生堂の生産設備と流通ネットワークを共有するようになり、コストを削減すると共に、資生堂のネットワークを通じてベア・エッセンシャルの流通を拡大するようになった。こうして両社は買収で狙っていた真の価値を実現し始めている。

 

3. 規模の経済を実現する

 合併や買収においてサプライチェーンのコスト削減を行う最も効果的な方法の1つは、購買の規模や価格決定力などといった規模の経済を実現することである。過剰な流通能力を縮小したり無駄な物流センターをネットワークから排除したりすることも、コスト削減実現の打ち手の一つである。その一方で、既存の物流センターを通じて流通能力を拡大することも、インフラストラクチャ投資の投資効率を向上させる上で驚くほどの効果がある。最後に、人員削減など、古典的なシナジー効果によるコスト削減も過小評価してはならない。

 

4. 新たな事業プロセスを推進する

 新たな業務のやり方を浸透させる上で、シェアードサービスは驚くほど役に立つ場合がある。一方の企業はもう一方の企業のシステム能力を活用することで新しい在庫補充モデルやメーカー直接仕入の導入のようなテコ入れを行うことができるようになる。クリック・アンド・コレクトやどこからでも出荷できる機能など、オムニチャネル機能にも同じことが言える。特にオンラインでは、共同ブランドのウェブサイトが複数ブランドにまたがる売り上げの増加に役立ちうる一方、複数商品の同梱発送はコスト削減に役立つ。

 

5. パフォーマンスを最適化する

 これらの新しい業務プロセスを実行に移した次のステップとしては、パフォーマンスを最適化できるよう標準化を行わなければならない。

 購読・販売物流や、物流センターネットワークの規模と機能の合理化など、経営陣から社内の物流センタープロセスに至る全ての機能において、サプライチェーン全体で取り組まなければならない。もちろん、サプライチェーンはシェアードサービスの重要な大半を占めるため、それぞれの企業がいかなる機能を継続して維持したいかを知ること、新たな組織でどの機能やいかなる業務プロセスを存続させるかを特定することが、本質的に重要となる。

 まずは、両社のネットワーク全体の検証から始めるべきである。このとき、施設の場所、機能、プロセスとサービスのレベル、輸送費用、サプライヤーのロケーション、ITインフラストラクチャ、マネジメントチームと店員の能力などを考慮に入れる必要がある。

 この分析の目的は、両社の組織全体から最高のプロセスを特定することにある。そして、最高のプロセスが存在しないならば、作り出すことは可能なのかを検討しなければならない。どのようなネットワーク戦略が新会社のサプライチェーンを最も効率的に稼動させるのか、それは2つの統合なのか、拡大なのか、0からの再構築なのかを検討する必要がある。

それぞれの選択肢が、輸送、システム、プロセスに対して持つ意味を考えることも忘れてはならない。この詳細なマッピングによって、ネットワークの重複を洗い出すことが出来、ネットワークのカバレッジ範囲を修正してコストを削減する可能性が特定される。

そしてもちろん、これらの分析の最終目的は、合併や買収によってシナジー効果を生み出し、価値を創出できるようにすることである。そのためには、地域やチャネルに特有の物流センターによってコストを削減したりサービスレベルを改善したりできないか、新規や異なる物流設備を導入できないか検討しなければならない。

 最初の計画作りが完了し、契約に署名した時点で、M&Aで最も重要な仕事が始まる。それは、統合の実施についての個別具体的な詳細を詰めることである。成功する可能性が最も高い合併後の統合計画は、機能の枠を超えた統合チームだけでなく、プログラム管理オフィス(PMO)の設立を盛り込んだものであり、全体的な統合計画の一部として、財務目標と時間的な目標を設定する。このように注意すべきことは多いが、合併・買収は、もちろん膨大な利益をもたらすことができる。例えばカート・サーモンは、ある小売企業の買収案件を精査する中で、追加投資をせずに1,000万ドルを超えるコスト削減の可能性を持つプロジェクトを40件以上見つけた。特に、販売計画や商品アロケーションから、卸売発注管理やサプライチェーンのサポートにまで及ぶ各分野で、それぞれの組織のシステムとプロセスの主な強みを活用する中に、コスト削減の余地が見つかった。

 しかし、この合併を、そして他の数多くの合併案件を成功させる重要な成功要因となったのは、両当事者が格別の注意を払い、価値にフォーカスしたことであった。その重要性に顧みると、合併や買収を真剣に検討する小売企業は、この点に十分配慮すべきである。

著者

Frank Layo は小売・消費財のグローバル主要企業に対し、サプライチェーン戦略のアドバイスをしている。

2013-10-1