2012年は小売業界にとって変化の年であったと位置付けられる。パーソナライズされた、魅力的なクロス・チャネルの体験を顧客にもたらす、つまりワン・ツー・ワンリテーリングへの需要が、組織、プロセスそしてツールに、業界がかつて経験したことのない急速な改革をもたらしている。そしてこの変化は2013年以降も加速し続けると予想される。

CIOは、2013年以降の見通しを立てるとき、数多くの難易度の高い課題への対応のため、これまで以上に戦略的な役割を担わなければならない。

これらの必要性が増大していることが、カート・サーモンがリサーチ会社トゥールナと共同で行ったCIOへの調査で明らかとなった。この調査において、50人以上のIT幹部が2013年以降の優先事項として以下の4点を挙げた。

1.            成長支援

2.            オムニチャネル事業を支援するテクノロジーの開発と推進

3.            マーチャンダイジング、プランニング、需要予測へのITの統合

4.            分析とビッグデータの活用

今日のCIOにとって、これらへの対応は極めて重要な課題である。新たに生まれるトレンドとビジネスのニーズをすり合わせながら、将来のいかなる状況においても、より適切に対応できる組織に継続的に改革する必要がある。調査によると、多くの組織にとってこれら戦略目標の実現には時間がかかりそうだ。

1. 成長支援

大企業におけるIT組織の役割はテクノロジーの変化と共に進化しており、多くの新たなニーズにより、IT組織は成長しながら戦略目標を支援していく必要性に迫られている。CIOは戦略的な長期プロジェクトと、素早く移り変わるトレンドに対応する新しいテクノロジーを活用した短期プロジェクトの両方に応える能力をますます求められている。

しかし調査によると、CIOはまだこれらの新しい課題に取り組む準備ができていない、あるいはそれらの存在に気づいてさえいないようである。例えばCIOの82%は、新しいテクノロジーを採用する自身の能力と専門知識がおよそ平均的であると調査で答えている。

しかし明らかに小売企業の82%が総じて平均的であるわけがなく、競合に大きく遅れている企業も存在すると考えられる。またこのことは、最新のテクノロジーによって技術進歩や価値増加がもたらされているにもかかわらず、CIOやその他の経営幹部がITを競争上の優位性とみなしていないことを示している。

IT部門はビジネスのニーズを把握しておらず、そのため企業はITを迂回して、広範な戦略的目標の達成を妨げる技術的な壁を乗り越えざるを得ないことがわかった。

例えばCIOの76%が既存事業の成長支援にのみ対応策を取っており、M&Aを支援する計画は持たないと答えている。全米小売業協会(NRF)の組織横断調査によると、回答企業の53%は2013年末までにサプライチェーンの全支出の少なくとも60%が海外での支出となることを予想しているが、海外展開を計画しているCIOはわずか8%に過ぎない。これはさらに小売業のCIOの多くが急激なビジネスの変化には受動的で、新市場への戦略的拡大に対応する準備が整っていない可能性を示している。

クラウド・コンピューティングがもう一つの例である。多くの企業がビジネスの可能性の拡大のためにクラウド・コンピューティングの活用を計画している中、クラウドを優先事項5点の一つに挙げた回答者はわずか6%だった。多くの人はクラウド・コンピューティングを戦略的な優先事項というよりはむしろITソリューションと見なしているようである。

今がCIOにとって体制を立て直すのに理想的なタイミングである。第一に、インフラがもはや障害でなくなったためである。回答者のわずか11%しかインフラがビジネスへの重石となるとは感じていない。インフラの安定性の向上は、回答者の60%が指摘している業務委託への支出増加と従量制課金制に基づき、予算が設備投資費用から変動費へと変化することで、仮想化そしてクラウド・ベースのプラットフォームへのアクセスがますます容易になることで説明できる。このインフラの安定性の向上により、CIOは、従来よりもビジネスにイノベーションと戦略的価値を提供することが可能になる。

第二に、CIOは組織で一段上の地位に昇格している。回答者の82%がCEOまたはCOOに直接レポートすると答えている。しかし多くのCIOがこの新しい役割を受け入れ、積極的にビジネスに関与し、即応性を高めて新テクノロジーを採用するための手段として活用するまでには至っていない。中には、戦略的パートナーとして組織に十分に受け入れられていないCIOもいる。CIOの76%が透明性と説明責任のプレッシャーが増したと回答しているように、報告ラインがCEOやCOOに対してより直接的になったことで、ITへの監視が強まったと感じている。

しかし、真に先進のIT組織を作るためには、非常に大きな変化を起こすことが必要になる。まず、CIOは業界標準の実現に努めなければならない。標準の採用という点において、小売業界はその他の多くの業界より遅れをとっているため、迅速に標準対応できる企業こそが、将来の技術変化に対応することが出来るだろう。

他業界と比較すると、金融サービス会社では、ITIL(インフラ・ライブラリ)の標準化が非常に進んでいる。ガートナーによると、これらの標準化がダウンタイムを30%、エグゼキューションタイムを20%減少させている。小売企業はまだ認識していないが、これは営業費用に大きな影響をもたらす。

第二に、求められる成長を支援するためCIOは旧既存システムから脱却する必要があるだろう。旧既存システムを廃止するに当たり、大企業のIT部門は将来のニーズと要件を満たし、既存システムを超えるような、新しいシステムの導入を模索している。さらに、ほとんどの回答者が、ビジネスの要件を満たすために様々なベンダーから最善のソリューションを導入する必要性を感じている。ERPの概念はまだ完全に小売企業に受け入れられていないが、重要な競争上の優位性を提供することができるだろう。

最後に、小売企業はシングルおよびオムニチャネル環境の両方でエラーを劇的に減らすことができる、マスター・データ・マネジメント(MDM)標準アーキテクチャを採用すべきである。例えば製造業のある大企業はMDMアーキテクチャを導入した結果、サイクルタイムを90%減らして生産性を50%改善させると共に、同社ウェブサイトのコンテンツ・エラーを68%減らした。

これらの目標を達成するためにCIOはより効果的で戦略的な組織を積極的に企画し、追求しなければならない。回答者の88%が自社のIT組織は効率的で、透明性を持ち、説明責任を果たす方向へ進んでいると信じている。彼らの50%が組織再編成を最近実施した、または現在実施している。これらの数字は良い傾向を示しているが、目標達成のための特別で具体的な施策があるわけではない。効果は自ずとは表われない。したがって、CIOは積極的に、スマート・ソーシング、クラウド・ベースのインフラ、およびIT標準を開発し、より機動性のあるIT環境を支援するために、スキルと人材モデルを適応させる必要がある。計画がなければ、CIOは現状維持にとどまるリスクにさらされることになる。

2.            オムニチャネル事業を支援するテクノロジーの開発と推進

テクノロジーは魅力的で一貫性のある体験と商品を、複数のチャネルにわたって提供することを可能にする要である。

例えばクロス・チャネルの在庫の確認と利用のためには、テクノロジーの最適化に新たな複雑性が必要とされる。つまりどの商品がどこから補充されるか、どの組織が在庫を所有し、どのような測定基準で成果を計るか、などの課題解決の実現である。

ほとんどの小売企業が依然として「どこでもショッピング出来て、どこでも買える」という条件を満たすことに苦戦している。自社システムが在庫切れの商品を別の店舗またはDCからの在庫で受注し、顧客の自宅へ配送することを可能にすることで、店頭での売上機会損失を未然に防ぐことを実現していると回答したのはわずか35%であった。そして自社システムが複数チャネルにわたるショッピング、購入、受け取りを支援すると答えたのはわずか6%であった。

またモバイル戦略に関しても十分な改良の余地がある。われわれはモバイル戦略がCIOにとっての最優先事項の1つであるべきだと考えているが、調査回答の中ではおよそ中間にランクされていた。これは戦略的に動けるCIOにとって、競合企業がその他の優先事項に取り組んでいる間にモバイル市場のシェアを獲得する好機となることを示している。

これらの新しいオムニチャネルの需要は、過去1年だけでも非常に大きな技術革新を引き起こし、その他の複数のシステムにとっても、顧客対面部門とバックオフィスの両方にわたり組織横断的にオムニチャネルの需要に追随しなければならないという、高い基準を設けることになった。ITはこれらの能力を構築する役割を本質的に担っている。例えばある専門小売企業のIT部門は、店頭配送技術の開発をリードすることで、99%のフィルレートで、1日5万件の注文を捌くことが可能となった。このプログラムを通じて小売企業は配送スピードを速め、競争力を獲得し、また幅広い品揃えを提供することが可能になった。

しかしオムニチャネルは、ただ新しいシステムだけでなく、大きな組織変更を必要とする。例えばカート・サーモンが最近行った25人の経営幹部とのインタビューによると、小売企業の56%は複数のチャネルにわたる顧客体験についての共通の定義を持たず、68%がチャネルと機能を横断する顧客体験に関する担当者を置いていない。オムニチャネルサービスを実現するための、システムとプロセスに対する最善の解決策を見出すことは、このような分断化した環境においては難しいだろう。CIOは積極的にビジネスにかかわり、オムニチャネルの組織が真にどのようであるべきかについて議論の調整を促すに当たって、リーダーシップの役割を果たすべきである。

3.            ITとマーチャンダイジング、プランニング、需要予測との統合

マーチャンダイジングとプランニングは、常にサイエンスとアートの複合として捉えられてきた。これまで小売企業は、マーチャンダイジングとプランニングのツールにおける変化を受け入れるのが遅く、多くの新技術が使われないまま過ぎてきた。しかし新しいテクノロジーがマーチャンダイザーとプランナーに大きな価値をもたらすようになり、サイエンスの比重が高まっていくだろう。

とはいえ、業界がサイエンス重視になるまでにはまだ長い道のりがある。技術的にトップクラスの小売企業でも、現在、商品管理(25%)、補充(25%)、そして店舗の予測と店舗プランニング(24%)のアップグレードの過程にあり、オムニチャネルの予測とプランニングは依然として優先度が低いと言う調査結果が出ている。

さらに小売業向けソフトウェアベンダーが様々な新たなツールで利益を得てきたにもかかわらず、エクセルを依然として記録ツールに使用しているケースが多々見られる。マーチャンダイズ・プランニングのツールは何十年も前から存在し、業界中で広く使われてきた。しかし小売企業の37%が依然エクセルに大きく依存している。また自社のマーチャンダイズ・プランニング・ツールがその他のプランニング機能や商品システムと統合されていると答えたCIOはわずか18%であることは注目に値する。統合されたプランニング・ツールは、小売企業が企業戦略を業務部門レベルで実行および自動化させる機会を提供するだろう。

エクセルは同様に、品揃え計画(アソートメント・プランニング)においても広く使われている。エクセルのスプレッドシートが主に使われるツールだと答えたCIOが47%いたのに対し、専用のアプリケーションを使っていると答えたのはわずか29%であった。このことは市場で利用可能な、アソートメント・プランニング・ツールの市販ソフトウェアの成熟度を象徴していると考えられる。このプロセスはマーチャンダイザーの仕事の中心であり、小売企業はこのプロセスをそれぞれ独自の方法で行うのである。小売企業の多様なアソートメント方法を十分にサポートする柔軟で洗練されたソフトウェア・パッケージを開発することは、ソフトウェア会社にとっての課題である。その暗号を解読した企業はまだ存在しないが、多くがこれに挑戦しており、答えに近づいている企業もある。

統合システムの採用が少ないという実状からは(回答者のわずか12%しか保有していない)、各分野における最善策を採用しているシステムから小売企業が享受しうる価値は限定的であると言えるだろう。複数のベンダーが幅広いシステムを提供していても、小売企業の大半はまだそれらの利点を活用できていない。

割当(アロケーション)に関しては、回答者の82%がこの機能を管理する市販のソフトウェア・パッケージを活用している。回答者の47%が自社のアプリケーションはライン・プランニングと統合されていると答えたが、高いレベルの統合性と洗練性を持つと答えたのはわずか6%であった。アロケーション・ツールは、長年にわたり市場に存在し、比較的成熟した技術である。小売企業は長い間、高度に洗練されたツールを有するこれらの機能を活用し、アロケーションの管理を行ってきた。

最後に回答者の42%が補充は高い精度で行われているとの認識を示しており、24%の小売企業が精度を高めるために、需要履歴、自動補充機能、そして、値下げと販売促進を活用している。さらに18%の回答者が、補充機能は仮説シナリオのような洗練された機能、クラスタリング、品ぞろえパラメータ、ローカライゼーションの効果など、川下および川上システムとの高水準の統合性を実現していると答えた。これらの補充ツールは小売業者にますます浸透し、大きな価値をもたらしている。例えば売上高200億ドルのある複合小売企業での試験的なケース場合、各クラスターの品ぞろえのわずか10~15%をコアの品ぞろえと差別化するクラスタリングを行うことで、売上を1~3%伸ばすことができた。

オムニチャネルのニーズを満たすため、チャネルを横断した在庫活用はその複雑さを増している。「神は細部に宿る」と言われるが、在庫最適化(店舗からの出荷対DCからの出荷)、商品の所有(組織内で在庫を所有する部門、店舗対オンラインバイヤー)、そして技術的課題(例えば、全チャネルにわたる共通SKUのサポート)などの細目を、オムニチャネルを実現するために克服しなければならない。われわれの調査によると、オンライン購入された商品の店舗での受け取りをITがサポートしていると答えた回答者はわずか12%だった。技術が進み、小売業者がオムニチャネルの世界で成功することに対する期待が高まるにつれて、今後5年間でこのパーセンテージは増えるとわれわれは予測する。

4. 分析とビッグデータの活用

オムニチャネルと同様に、分析もまた、CIOが密接にかかわるべき職務である。多くのCIOがその必要性に注目しているようだ。調査対象のCIOの86%が、分析機能の優先度は高く、拡大するビジネスニーズを満たすために予算を増やすことを計画していると回答している。これはCIOの最優先事項であるべきだとわれわれは考えている。ビッグデータに関して盛んに喧伝がされており、小売企業は利益増大のための分析への投資を模索しているからである。

これには十分な理由がある。積極的に分析主導型のビジネスモデルを追求してきた小売企業は、パフォーマンスの大幅な上昇を実現している。

例えばカート•サーモンの顧客である専門小売企業は、在庫割当の分析とプロセスを改善した結果、10〜15%の総在庫の削減と、0.6~0.9%の売上増加を達成した。

しかし分析はCIOが単独で取り組むべき問題ではない。CIOの86%が、分析はITと事業部門間の共同作業であると回答しており、確かにそのとおりである。分析から価値を引き出す成功の鍵は、それらを日常の事業運営に組み込み、事業の結果に直接つながる意思決定を取るために利用することである。

これにはエクセル以上の適切な技術が必要だ。幸いなことに今日技術はさらに成熟し、コンピュータの処理能力やデータ保管のコストは低下し、SaaS(サービス型ソフトウェア)などの新しいサービス提供モデルにより、企業は必要なテクノロジーに容易にアクセスすることが可能になった。テクノロジーへの投資が確実に十分なリターンを生むようにするために、企業は分析チーム、実際に業務で使うエンドユーザー、そしてIT部門の間に、協力的パートナーシップを築く必要がある。このパートナーシップで協力しながら、最終的なビジネスの機会、その機会実現のための現在の障害、そしてそれらの障害を取り除くために必要な機能を見極めなければならない。そうして初めて、必要な技術への投資についてのロードマップと事業案の展開に着手すべきである。こうすることで、組織、特にCEOとCFOが投資の正当性を理解できることになる。

明らかに多くのCIOにとって、理想的なIT部門を作り上げるために為すべきことは多い。しかし今、基礎固めをすることで、IT部門は企業が将来に渡り決して遅れを取らないよう貢献することができる。経営幹部と共に積極的なリーダーシップを取り、ビジネスの目標を達成するために協力することがそのスタートとなる。オムニチャネル、マーチャンダイジングとプランニング、分析などの、たくさんの新しい戦略的責務は、ITの力と支援を必要としている。そしてこれらの新しい取り組みは、自社のシステムのニーズと合致するだろう。このような環境の中、現在と将来へ向けた視点を持つCIOの存在が重要である。

 

ワン・ツー・ワン リテール ~オムニチャネルの体験

一流の小売企業は、顧客に生活の中で普通に期待するレベルでのパーソナライゼーションを提供すること、さらに顧客の来店、チャネル、そしてロケーションの全てにまたがる1対1の小売として浸透性があり、個人的な関係と体験を開発することをこれまで以上に追及している。

これらのパーソナライズドな体験は主にオンラインで起こっている。チャネル横断的な、継ぎ目のない、パーソナライズされた体験を提供することは、業界にとって最大の機会でもあるが、その前提は今までは往々にして店舗の入り口で崩れることが多かった。

新しいテクノロジーによって、今、小売企業は、実店舗の世界に1対1の小売体験をもたらすことを経営的にも可能にした。これは顧客の視点からはどういうことであろうか?

  • 店舗は顧客が物理的に店舗に入ったときに、顧客が誰なのか、顧客の好みと購入履歴を把握し、チャネル横断型の顧客個人のマーケティング情報とリンクする
  • 店舗は顧客が店舗内にいる間、取扱商品を把握している
  • 店舗は現在オンラインで見られる豊富なブランドストーリーとソーシャルメディアとの統合を提供する
  • 店舗は顧客の過去の嗜好から個人仕様の推奨商品、保有商品、陳列場所と在庫などの情報を得るために、顧客が店舗内のテクノロジーにアクセスできるようにする

このようなパーソナライズされた対応を提供することで、非常に大きな競争上の優位性が生み出されるだろう。現在米国は店舗過剰の状態であり、消費者の限られたお金を争い、小売企業間の競争が熾烈になっていることは知られている。勝ち組となる小売企業は既存施設の生産性をより高めた企業であろう。

多くの小売企業がテクノロジーの導入に躍起になっている。販売員の自由度を増せば、クロスセルも、より良い顧客対応も可能になるという前提で、販売員だけがモバイルPOSなどを使えるようになっている。しかしモバイルPOSテクノロジーの能力が、コンバージョン率(購買者率)とバスケット・サイズ(客単価)に与えうる影響は限定的である。カート•サーモンは、テクノロジーを使って顧客との対話を優先し、顧客に1対1の小売体験を可能にすることをむしろ推奨する。

2013-12-3