最近の小売業界でRFIDはホットトピックとなってきているが、これは在庫精度や在庫計画の改善、万引きや内部犯行による商品盗難などの在庫損失の防止、オムニチャネルのフルフィルメントの促進、店頭での顧客と商品のリアルタイム・インタラクションを実現、などのRFID活用によるメリットが具体的になっていることが引き金となっている。

実際に個別の活用方法を吟味していくと、RFIDを導入すべきであるというビジネスケースがかなり説得力を帯びてくる。

しかしRFIDがもたらし得る真の効用は包括的に活用された場合にあり、個別活用ではなく包括的活用を検討すべきである。

我々はRFIDが持つ潜在的価値をすべて組み合わせてこそ、初めて人々の予想を上回るようなRFIDの真価を実現できると考えている。在庫可視化の改善による売上増にだけではなく、競争上の重要な差別化要因となる「オムニチャネルのフルフィルメントの促進」や「顧客体験の改善」を実現する為にも、RFIDは素晴らしい効果を発揮する。

当然ながら全ての小売企業であらゆるRFIDの活用可能性を追求するべきというわけではない。ここでは、まずRFIDの5つの主要活用方法とその効用を説明する。

1.在庫の可視化

サイクルカウントを定期的に行うか、RFIDリーダーを店頭にいくつか設置することにより、売り場でどの商品が品切れしているかをほぼリアルタイムで把握することが可能になり、機会ロスを低減する上で有効である。RFIDを使うことによって1時間あたりの検品可能点数は200点から14,000点に激増し、従来の方法に比べて在庫の検品と補充をより頻繁に行うことが可能になる。この効果により在庫検品に必要な工数が大幅に減少し、従業員はより多くの時間を売り場で顧客に接する為に使う事が可能となる。

このRFIDの活用方法は、重大な効果をもたらす。ハーバード・ビジネススクールの研究によると、小売が取り扱っている商品の8%は常に品切れ状態であり、アメリカだけでも年間690億ドルの機会ロスが生じている。カート・サーモンの経験から判断すると、サイズや色の組み合わせが多くなるような商品においてはさらに品切れ率は高く、15-20%程度に上ることもあると言える。しかしながらRFIDを活用することで店頭在庫切れをより早期に検知でき、店頭及びバックヤードの在庫をより迅速に補充することができるようになると、品切れ率を60-80%程度削減することが可能となり、結果として売上の増加も期待できるとABI Research社は報告している。売上増加の度合いは商品の代替性によるが、一般的に3-10%程度の増加は望めると言える。例えばあるグローバルアパレル専門店ではRFIDの導入による店頭在庫切れを未然に防ぐことで、店舗あたりの売上高で4%の増加、全店舗での売上高に関しては合計25億ドルの増加を実現した。

また在庫切れの低減とともに、RFIDは平均単位小売価格(AUR)を改善する助けとなる。現在のバックルームや店頭在庫は十分な頻繁で検品できていないため、販売することもなく埋もれたままの在庫が大量に残っているのが現状である。ある調査によると、商品の30%はクリアランスに移すタイミングまで「見つかる」ことがなかったというデータもある。これらの在庫が売り場で品切れした時に適切に補充されていれば、平均単位小売価格で3-5%は増加したはずである。

2.オムニチャネルのフルフィルメント

在庫のリアルタイム可視化によって、小売企業はオムニチャネルのフルフィルメントをより高い精度で実現できるようになる。店員はモバイルデバイスを使って全店舗の在庫状況を正確・迅速に把握できる事で、企業にとっては機会ロスを防ぐとともに、顧客に対してはその店舗にはない商品でさえ購買できる機会を提供できるようになる。またオンラインで正確な在庫把握ができれば、店舗から消費者への配送やクリック&コレクト(インターネットで注文し、店頭で受け取る)も可能になる。

これらの施策は配送費の削減だけではなく、販売可能商品が増えることで売上の増加にもつながる。例えばアメリカンアパレルは店舗をバックアップ的なフルフィルメントセンター(発注拠点)として活用し始めることで、オンライン売上を30%増加させた。また米国百貨店のノードストロームはオンラインと店舗在庫を統合させたことが、オンライン売上高39%増を実現したドライバーになったと発表している。さらには、RFIDによる在庫統合管理により、過剰在庫を抱えている店舗からの発送や他店補充が可能となり、売れ残り在庫のマークダウンを減らし、定価での売上増加も実現可能となる。

3.需要計画

在庫レベルの透明性が改善されることで、より精度の高いリアルタイムで店舗補充が可能になる。さらに、MD計画プロセスのより早い段階で在庫の情報を活用することにより、より精度の高い購買や配分オペレーションが可能になる。

このおかげで店舗在庫レベルは改善し、マークダウンが低減され、結果としてマージンが改善される。さらに、ここで紹介した科学的な需要計画によって最初の仕入れ数量を低減できることもあり得る。たとえば、ある百貨店チェーンでは売上を4-5%増加しつつ、在庫を1%削減すること想定している。

4.ダイナミックディスプレイを利用したリアルタイムの消費者と商品のインタラクション

RFIDとダイナミックディスプレイを組み合わせて提供することで、顧客が手にしている商品や買い物をしている店舗に関しての詳細な情報を提供したり、顧客の購買履歴や嗜好から顧客に関係性の高い情報を表示することによって、顧客エンゲージメントを強化し、クロスセル機会を増やすことが可能である。ダイナミックディスプレイを使えば、情報提供の他にもユニクロが展開していたマジックミラーのように、顧客は実際には試着し直さないでも、他の色を着た状態をバーチャルで確認することが可能になる。

複数のアパレル専門店に対するカート・サーモンの調査によると、このような魅力的でパーソナライズされた顧客体験を提供する事で、コンバージョン率(購入率)を40-60%高め、クロスセルの機会も15-25%程度高めることが可能である。

5.盗難防止

フロリダ大学によると、小売企業は在庫損失により年間370億ドル以上の損失を出している。この状況に対応する為には、各商品の移動に関する詳細情報を監視する電子監視ツールとして、アイテムレベルRFIDを導入することが可能である。

アメリカンアパレルのRFID導入店舗120店では在庫精度が99.8%となり、在庫損失は55%低減された。

導入費用が下がり続けている現状において、小売企業によってはRFIDを導入することによって大きなリターンを得られる可能性が高まっている。しかしながら多くの小売企業にとっては、上記で述べた何れか特定の効用を狙うのではなく、RFIDから得られる様々な効用を包括的に捉える事で、RFID導入の魅力が非常に高まるはずである。RFIDの導入が、オムニチャネルのフルフィルメントを可能にし、魅力的かつパーソナライズされた顧客体験を可能にするという、現代の小売において必須である2点を実現可能にする事実は、RFIDは売上増加だけではなく、高い付加価値のある購買体験の提供を実現するカギであると言える。

 

RFIDを導入すべきではない例

平均単価が低い商品や、季節性が高い高級ファッションのような一時期に売り切る商品などは、RFIDのメリットを最大限に引き出せる商品カテゴリーとは言えない場合もある。

しかしその場合でも、在庫精度・需要計画・顧客体験といったRFIDが提供しうる効用を実現できるテクノロジーはほかにも存在する。

スマートシェルフ

スマートシェルフとは光センサー技術を使い、顧客がある商品の前でどの程度滞在するか、顧客が商品を手に取ったか、何分ぐらい手に取っていたか、次にどの商品を手に取るかなどを検知することが出来るディバイスである。このテクノロジーを活用することによって1対1で商品を比較した際に消費者がどちらを好むか、またある商品カテゴリー内においてどのように商品を選択しているかに関する洞察が得られる。また棚の状態を自動的に検知できるので、補充が必要になると同時に小売企業もしくはメーカーに通知を送ることも可能である。

売り場での顧客トラッキング

現在は主に食品スーパーやドラッグストアで主に活用されている売り場での顧客トラッキングでは、店内の鍵となるロケーションにセンサーを設置し、来店客の買い物時間や、購買者が何に触れ、何をカートに入れるかを検知できる。このテクノロジーを通して複数の競合するプロモーションや売り場のレイアウトの効果の評価や、購買者の出入りが激しいエリアもヒートマップによって可視化される。

スマートカート

スマートカートによって顧客はオンラインで作成した買い物リストをショッピングカート上の画面に表示させることが可能になる。店内にいる間に、カートのセンサーが購買パターンを追跡し、カートの位置に基づいた広告やプロモーションの表示や、カートに入れた商品と買い物リストに応じて関連性の高い商品のお勧めや、同じ通路で他の顧客が購入したアイテムを提案することができる。ここで提供している購買体験は、スーパーにおける購入の約40%を占める衝動買いをさらに促すためである。